第649話 三番目の情報
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「相棒、サメ子。オレたちは生き残った避難民を連れて、警備の薄いヒスイ河の源流、コウナン地方北部にある常葉山へ向かう。その後は、奴らの本拠地があるという滅んだ里アシハラを目指すから、なんとか合流してくれ」
天狗面を斜めにかぶった金髪の長身少年、五馬乂は動画の中で呼びかける。
「な、なんだって?」
「サメー!?」
乂の相棒たる、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、幼馴染であるクマ国代表の養女、建速紗雨は、アシハラの里という地名に覚えがあった。
二人が今いるウメダの里の実力者で、二千年を生きる付喪神、田楽おでんが先日、その名前を口にしたばかりだからだ。
「アシハラの里って、おでんさんが言っていた、紗雨ちゃんのご家族の手がかりがあるっていう里のことだよね?」
「なんで〝完全正義帝国〟に占領されているサメー!?」
桃太と紗雨がまさかの地名に目を見張る中。
「シャシャシャ。ところで格君、オススメのエロ本とかあったら、ぜひ教えて欲しいんだが……」
「ニャニャンニャー(避難民に何言ってるの、このデリカシーなし男)!」
乂は、パートナーである三毛猫に化けた少女、三縞凛音の猫パンチをあごに受けてダウン。
「い、イッツジョーク。相棒、サメ子、おたすけええっ」
「ニャンニャー!」
最後にお仕置きを受ける悲鳴が響いて、動画は終わった。
「し、信じられない」
桃太と紗雨の隣で動画を見ていた鴉天狗の葉桜千隼は、相撲大会で優勝した乂のファンだったこともあり、顔色が変わるほどに衝撃を受けていた。
長く伸びた前髪を右手でもちあげ、見間違いではないかと何度も映像を確かめている。
「私、防諜部隊ヤタガラスの小隊長のはずなんですが、乂様にこういう突飛な側面があると初めて知りました。なんなら、たった今まで潜入捜査をされていたことすら、知りませんでした」
「「それは、うん」」
千隼は、若手の中でも一番戦闘に長けた期待のルーキーではあるが、経験不足もあって今のところ情報戦にはまるで向いていない。
三人がこれからどうすべきかと決断を迷う中、桃太の部屋に新たな来客がやってきた。
「桃太くん。冒険者組合本部の獅子央孝恵代表からメッセージボイスつきの式神が届いたわ。あら、葉桜さんもいるのね」
「すみません。先生、ここで聞いてもかまいませんか?」
「構わないわよ。千隼さんにも知って貰った方が良さそうだし、急ぎの内容ではなかったから」
遥花が式神の背を押すと、フクロウの口が大きく開いて、二つの情報を補完する、とんでもない内容が流れ始めた。
『桃太君、親善任務達成ご苦労さま。
申し訳ないのだが、地球への帰還までに、情報収集に努めて欲しい件ができた。
調査の対象は、クマ国の反政府組織〝前進同盟〟に所属するゼンビンとリノーだ。
この二人は、冷戦時代に異界迷宮カクリヨに滅ぼされた東側諸国出身者の子孫で、現在の地球に強い敵意を抱いているグループの旗頭らしい。
日本政府と冒険者組合は、近いうちに彼らが〝前進同盟〟の過激派をまとめて、独立するのではないかと警戒している。
責任はすべてボク……、獅子央孝恵がとるので、思うように動いて欲しい』
桃太と紗雨、そして、千隼。
他二つの映像を目にしたばかりの三人が目を丸くしたのは言うまでもない。
「カムロ様、五馬乂様、そして、獅子央孝恵様。出雲様のところへ、発信時間とはちょうど逆の順番で情報が入ってきたのか。すべてが一本の線で繋がってしまった」
あとがき
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