第648話 〝前進同盟〟と〝完全正義帝国〟
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「「うおおおお! すげええええ」」
天狗面をかぶり山伏の服を身につけた金髪の長身少年、五馬乂は、異世界クマ国で虐殺を引き起こしたテロリスト団体、〝完全正義帝国〟の兵士三〇人をことごとく打ち倒し、避難民達の喝采を浴びた。
「芙蓉格君。このテロリストどもは、クマ国の反政府組織〝前進同盟〟に参加していた〝元地球人〟で間違いないんだな」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨。前髪の長い中性的な鴉天狗、葉桜千隼。三人が見守る中、動画は続く。
乂は下手人を縛り上げたあと、ボロボロの服を着た女性や子供達からこれまでの事情を聞きだしていた。
「はい、我々は一葉朱蘭様たち、オウモ様の部下だという方々に助けられたのですが……。地球からの逃亡者達が〝完全正義帝国〟を名乗って、クーデターを起こしたのだと言っていました」
桃太達は、変装のためか、女性用の服を着た面立ちの整った少年から、意外な人名を聞いて目を見張った。
「一葉朱蘭さんって、元勇者パーティ〝J・Y・O〟の代表で、四鳴啓介さんや元勇者パーティ〝S・E・I〟と一緒に地球でクーデターを起こした人だったよね?」
「根っからの悪人じゃなかったサメ?」
「〝前進同盟〟に傭兵として雇われたのでしょうか? ともあれ、人命救出に尽力してくれてありがたいことです」
オウモも〝完全正義帝国〟の蜂起に対し、事前策を講じていたらしい。
だが一度動きだした反乱の流れは、彼女の想定を上回ってしまったようだ。
「キソの里に居た〝前進同盟〟の大人達は、私達を逃がすために最後まで戦ったの」
「パパもママも殺された。こんな奴ら、クマ国人でも地球人でもない。ただの悪鬼よ」
啜り泣く子供をあやした乂は記録動画を撮影している彼のパートナー、凛音の前へやってきた。
「相棒、オレとリンはクマ国の反政府団体〝前進同盟〟が食料や武器を集めているから調べろって、カムロに言われて潜入していたんだが……。ジジイの懸念がぴしゃりと当たっちまった。今日の明け方、一部の過激派が虐殺を引き起こしやがったんだ」
乂は赤く染まった瞳で、いたましそうに傷ついた避難民を見つめ、次に捕縛した兵士たちを、憎々しげに見つめた。
「だが、生き延びた連中から聞き出したところ、どうやら暴れているのは、オウモや〝前進同盟〟じゃなくて、彼女に反旗を翻した〝完全正義帝国〟なるテロ団体らしい」
凛音が撮影先を変えたのだろう。招き猫に似た式神が目から宿の壁に投影した録画映像が一転し、赤い血で濡れ、煤まみれになった服を着た避難民達の姿を映し出す。
「さっき潰した小隊も、〝完全正義帝国〟の中じゃ、ただの末端だ。離反者の数はそう多くないはずなのに、〝わけのわからん戦力〟を動員して、意に沿わない同胞とクマ国を殺し、土地と物資を奪い、故郷である地球へ攻め込むと息巻いてやがる」
動画の中で、乂は天へ祈るように呼びかける。
「相棒、サメ子。オレたちは生き残った避難民を連れて、警備の薄いヒスイ河の源流、コウナン地方北部にある常葉山へ向かう。その後は、奴らの本拠地があるという滅んだ里アシハラを目指すから、なんとか合流してくれ」
あとがき
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