第646話 リンの援護と乂の奮戦
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「は、どんなもんよ」
天狗の面を横にかぶり、山伏の服を身につけた金髪の長身少年、五馬乂は、猟犬銃鬼の役名を名乗るサイボーグ兵たちの義腕、義足を破壊し、銃器を破壊した。
だが、それで正気に戻るほど、〝完全正義帝国〟の業は浅くなかった。
「ま、まだだ。たとえ銃がなくても戦える。なぜなら我々は選ばれた存在だからだ。でなければ、〝前進同盟〟と手を切った意味がない!」
「あいつらを殺して〝蛇の糸〟を使えば、ここからだって立て直せる」
犬の仮面をかぶった〝完全正義帝国〟の兵士達は、骸骨めいた白い軍服の腰からサーベルを抜いて、かつての同胞であった避難民達に向かって襲いかかったのだ。
「きゃああっ」
「女子供を守れっ」
兵士たちに焼き討ちされ、ボロボロになった避難民達は円陣を組んで、小さなナイフや木の枝で応戦する。
「ギャハハ。残念だったなヒーローもどき。お前一人では獣達は守れまい」
「こ、これはまずい」
宿で記録動画を見守る、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は相棒の窮地に冷や汗を流した。
「飛燕返しを改良したことが裏目に出てるサメエ」
「短剣仕様に特化して安定した反面、リーチが足りなくなりましたか」
乂の幼馴染であるサメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨と、乂のファンである前髪の長い中性的な鴉天狗、葉桜千隼も固唾をのんで見守るが……。
「ノープロブレム。オレは一人じゃない」
「ニャーっ」
動画の撮影者である三縞凛音が熱線を放ち、避難民を守るように火柱がたった。勇足を踏んだ兵士たちの一部は巻き込まれて、もんどりうって転げ回る。
彼らの切り札だったのだろうか、うぞうぞとうごめく細い蛇も、炎に包まれて真っ黒焦げになり、灰となって散った。
「ば、バカな。いつのまに?」
「銃撃戦の間に仕込んだとでも言うのか? どこから仕掛けを用意した?」
「あの猫、封筒サイズで大型コンテナ並みの容量を運ぶという、〝内部空間操作鞄〟を体に巻き付けているぞ。火種は、きっとあそこからつかみ出したんだ」
「ニャ、ニャー(そのとおり。猫の姿でも戦えるわ!)」
画面には映らないものの、凛音の強気な鳴き声が響く。
「さすがは凛音さん。元〝鬼勇者〟は伊達じゃない。この戦い方は、前に苦戦した業夢さんのやり方を応用したのかな?」
「リンちゃんの未来予測、決まれば無法サメエ」
「役者が違いますね」
三人がほっと胸を撫で下ろしながら、再び動画に集中すると……
乂は、パートナーの援護を得てテンションをあげたのか、あたかも水を得た魚のように更に加速した。
「シャシャシャっ。クマ国じゃ基本的に使えない銃なんてチート頼りのヘタレが、そこで民間人を、しかもかつての仲間を狙いに行くところが、腐っているんだよ!」
乂は火柱を前に足を止めた卑劣漢達に追いすがり、千切っては投げ千切っては投げとばかりに、叩きのめした。
「うわああ、我々は人間だぞ。異界の獣にやられるなんて」
「こんなのは世の道理に反している。理不尽だ。ひぎゃおおおっ」
かくして、合わせて二九人のサイボーグ兵達は揃って沈黙。
「〝完全正義帝国〟。お前たちの身勝手な思い上がった妄想を、他の国にもちこむんじゃない。残りは隊長だけ、ここで仕留める!」
あとがき
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