第645話 進化した飛燕返し
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「奥義開帳・〝飛燕返し〟!」
天狗面を斜めにかぶり、山伏の服を身につけた金髪の長身少年、五馬乂は錆びて赤茶けた短剣一本を手に、犬の仮面をかぶった〝完全正義帝国〟のサイボーグ兵士たちが放つ銃弾の嵐へと飛び込んだ。
「乂っ。死ぬ気かっ」
「ガイのアホーっ」
「乂様っ、いけません!?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太。サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨。前髪の長い中性的な鴉天狗、葉桜千隼は、猫の式神が映す録画動画を見ながら、悲鳴じみた声をあげるも……。
「ニャーっ」
桃太達が見る映像を撮影中の、三毛猫に化けた少女、三縞凛音は心配するなとばかりに一声鳴いた。
「シャーッシャッシャッ。こいつは、オレとリンの愛が紡ぐタッグ技だ。魂を鬼に売り払った外道の弾丸なんて届くかよ!」
乂の瞳が、〝鬼の力〟を発揮して更に赤く輝く。
彼のパートナーである凛音の未来予知能力を借りて、迫る銃弾の軌跡を把握しているのだろう。
記録映像の中で、あたかも氷上スケートでも踊るかのように、軽やかに舞いながら、鱗の生えた右腕で錆びて赤茶けた短剣を短剣を縦横無尽にふるう。
「ホォレイ(やったぜ)。前より短いから、方向転換もお手のものさ!」
そして、乂が繰り出す、燕が空中飛行するように、変幻自在の角度で屈折する剣技。飛燕返しこそは、八岐大蛇、第七の首ドラゴンヴァンプを追い詰めた、乂の必殺技に他ならない。
「「じ、銃弾が跳ね返されるだと?」」
「「うでがこわれる、ばかなああ」」
乂は自分と避難民に向けて発射された、すべての弾丸を銃口へと叩き返した。
「シャーッ! 相棒、サメ子、見てるか? これがオレの新しい〝飛燕返し(スワローターン)〟だ!」
桃太も紗雨も思わず手を叩き、快哉をあげた。
「乂、よくもこれだけの銃弾をさばいたものだ」
「飛燕返し、使いこなせるようになったサメエ!」
「うーん。変化術が目立ちますが、色々変わっていますね。もう一度見直しても構いませんか?」
二人は、同じように式神の映像に見入っていた、千隼のススメで改めて動画を巻き戻して見直した。
「紗雨ちゃん。乂が使った今回の飛燕返し、以前使った時と違って、短剣をビームソードみたいに長くしていないんだね?」
「サメエ。乂はあくまで反射する〝鬼の力〟を刀身にかぶせただけみたいサメエ。以前の戦いで、いくつも術を重ねた反動で骨折したから、省エネを意識しているみたいサメエ」
乂が初めて飛燕返しを使った時は、相手が空飛ぶ竜だったからか、それとも同じ技を使うセグンダへの敵愾心ゆえか、使い慣れない長さまで剣身を伸ばした結果、肉体にも鬼神具にもかなりの無茶を強いていた。
「乂様は両腕を人間から幻獣族のものへと変化させることで、骨折を予防していますね。以前とは段違いに、安定性を高めた切り札へと進化しています。強さを求める飽くなき探究心、戦士として憧れてしまいます!」
「なるほど、男子三日会わざれは刮目して見ろという。負けていられないなあ」
以前の乂は、前のめりな性格もあってか、〝鬼の力〟を際限なく使う連続技を好んで繰り出し……。
短剣の中で悪影響が出ないように調整している八岐大蛇・第五の首、隠遁竜ファフニールこと、ファフ兄を怒らせることが多かった。
しかし、桃太の師匠でもあるカムロの用意した訓練メニューをこなすことで、悪癖が改善されつつあるのだろう。
映像の中では乂が、桃太達に向けて満面の笑みを浮かべている。
「は、どんなもんよ!」
あとがき
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