第644話 乂の成長?
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「乂、やるじゃないか!」
「恐ろしくはやい剣さばきサメエ。紗雨たちじゃないと見逃しちゃうサメエ」
「変幻抜刀・疾風斬。まさに神業でした」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨、前髪の長い中世的な鴉天狗、葉桜千隼は――猫の式神が宿の壁へ写しだす記録映像に見入っていた。
避難民と自らの命を守った乂の剣技が、あまりにも色鮮やかだったからだ。
「なんだ、銃が暴発したのか?」
「戦功に逸るからだ。バカどもめ、あとで躾けなおしてやる」
しかし、記録映像の中にいる〝完全正義帝国〟の兵士達二〇人は、隊長らしき髭面の男シンショウを含めて、目の前で起きた光景をまるで理解できていなかったらしい。
「〝二刀剣客〟の役名を名乗りながら、ボロボロのナイフ一本しか持たない名前倒れめっ。他の獣共もろとも蜂の巣にしてやる。〝猟犬銃鬼〟よ、構え!」
「「命乞いをするならいまだぞ、聞き届きゃしないがなあ!」」
髭面の隊長シンショウが指示を改めて指示を飛ばすや、骸骨を連想させる白い軍服をみにつけ、犬の仮面をかぶった残る九人の兵士達は、一斉に義腕や義足に仕込んだ銃の引き金に指をかけた。
「ザッツライ(そのとおり)。武器がボロボロなのは否定しねーよ。相棒と別れて以来、剣の切れ味が更に落ちた気がするし」
「「う、うわあ、もうだめだあ」」
乂の投げやりな独白に、彼が握る錆びて赤茶けた短剣は抗議するかのように震え、里や焼け出された人々も山道で肩を寄せ合いながら悲鳴をあげる。
「だが、ジジイの用意した鍛錬メニューで修行することで、以前よりは慣れたぜ。みんな、オレを信じろ。この五馬乂が全員助けてやらあ」
「「ほ、ほんとうに!?」」」
乂は、避難民達を振り返って不敵に笑って見せた。場違いなまでのビッグマウスながら、傷ついた人々の目にかすかな光が灯る。
「五馬乂って、ひょっとしてクマ国相撲大会を連覇したお方?」
「カムロ様の養子だっていう?」
「ヤンチャだけど、あちこちの村で人助けをしているらしい。報酬もエロ本だけでいいそうな」
あるいは、同じように地球からクマ国へ逃れながらも……、〝完全正義帝国〟の悪漢達とはまったく正反対の善行を積み重ねた、乂の人徳がもたらした希望だったのかも知れない。
「変幻術起動、龍鱗展開」
乂の腕に爬虫類めいた鱗が生えて、人間ならざる複数の関節と逆関節を有する奇妙な腕に変化する。
「リンとの視覚同期、未来予測も問題なし。お前達の未来、二〇人分の弾丸は見切ったぜ」
乂が〝鬼の力〟に満ちた赤い瞳を輝かせながら走り出す瞬間と、髭面の隊長シンショウが射撃命令をくだすタイミングは奇しくも同じだった。
「寝言をほざく、撃てえ!」
「くたばりやがれええ!!」
乂は銃弾の嵐が奏でる伴奏曲を背に、青々と葉が生い茂る山肌を、あたかも氷上スケートでも踊るように舞った。
「奥義開帳・〝飛燕返し〟!」
あとがき
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