第643話 乂の役名と奮戦
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「リン、今からカッコつけるから、ちゃんと録画しておけよ」
天狗の面を横にかぶり、一本足の高下駄を履いて、山伏のような服装に身を包んだ金髪の長身少年、五馬乂は、招き猫の式神を使って情景を録画しているのだろう幼馴染、三縞凛音に向けてウインクする。
「舞台登場 役名宣言――〝二刀剣客〟」
そうして乂は、〝鬼の力〟の影響を受け、うれたホオズキのように赤く輝く瞳で、クマ国の反政府団体〝前進同盟〟から離反したという過激派の元地球人テロリスト団体〝完全正義帝国〟をにらみつけ、錆びた短剣を向けた。
「イッツショータイム! 〝前進同盟〟も好かんが、多くの民間人を巻き込み殺した〝完全正義帝国〟のやり口は目に余る。ここでぶっ飛ばしてやるぜ」
「おい、乂とやら。刀というより、ナイフが一本しかないようだが?」
しかしながら、五人減って二五人となった犬面の兵士たちのうち、唯一素顔を見せた髭面の敵指揮官から、容赦のない指摘をうける。
「ウェイトアセカンド(ちょっと待ちな)! 別にナイフ一本使いが二刀流剣士を名乗ってもおかしくないだろ?」
「「シンショウ隊長の言う通り、おかしいわ。というか、それは詐欺だろう!」」
犬の鬼面をかぶる兵士たちも口々にブーイングするが、残念ながらもっともである。
「オーッマイガッ、録画していたんだっけ。相棒とサメ子の前では役名を隠していたのにバレてしまった」
桃太達が見ている動画の中で、乂は「今のシーンカットできない?」などとのたまっているが、映像録画術に編集機能はなかったらしい。
「うん、ちょっと恥ずかしい。」
「これは間違いなくガイ。偽物の心配はないサメ」
「乂様。おいたわしや」
桃太達は雰囲気の変化に風邪をひきそうになったが、残念ながら危険は去っていなかった。
「二足歩行の獣が、減らず口をたたきやがって!」
乂の飄然とした態度がよほどに気がくわなかったのか、それとも練度が低いのか。
「シンショウ隊長の手を煩わせるまでもない。おれに続け、第二班射撃用意!」
「「死ねええ」」
〝完全正義帝国〟の兵士、猟犬銃鬼の班長が上官の命令を待たずして銃撃を放ち、部下四人も続こうとした。
「銃弾はまっすぐ飛ぶからな、剣よりも対処しやすいんだよっ」
されど、乂が飛来する弾丸を錆びた短剣で反射。
先走った雑兵五人は、それぞれ自ら放った銃弾で生身の体に風穴を空けられて、痛みのあまり悶絶した。
「「ぎいやあああ!?」
「五馬家秘伝〝葉隠〟……じゃなかった。オレ流・ハイド・ザ・リーブズの進化を見せてやるぜ!」
乂はその隙を見逃さす、短剣に風を巻き付けながら、山道を蹴りつけて走る。
「変幻抜刀・疾風斬!」
「「風がっ、うわあああっ」」
「「お、おでのうでがああっ。足があっっ」」
乂は一陣の風となって剣を振るって追撃。あたかもボウリング球がピンを吹き飛ばすように、〝鬼の力〟を宿す機械仕掛けの手足を破壊して、五人のサイボーグ兵を無力化した。
「乂、やるじゃないか!」
「恐ろしくはやい剣さばきサメエ。紗雨たちじゃないと見逃しちゃうサメエ」
「変幻抜刀・疾風斬。まさに神業でした」
あとがき
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