第63話 〝剣鬼〟鷹舟俊忠との死闘
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「舞台登場、役名変化――〝忍者〟っ。ヒアウィゴー!」
桃太の瞳が青く輝くや、黄金の蛇こと乂がお面となって、顔の右半分に張り付いた。
衣服が黒装束へと変化し、腰帯に差した短刀が太陽の如き光を発すると、渦巻く暴風が秘密基地の広間を揺らした。
「サメッサメエ。桃太おにーさん、火の人は任せるサメエ」
「焼き魚にしてあげる!」
空飛ぶサメ姿の紗雨は基地内の岩盤からしみ出す水を操って水柱を次々と生み出し、元勇者パーティ〝C・H・O〟代表、三縞凛音の熱線を遮って時間を稼いでいた。
「紗雨ちゃん、ありがとう。俺と乂ですぐに終わらせる」
「小僧も〝鬼神具〟と契約を結んだのか。大口を叩くのは結構だが、俺サマと〝茨木童子の腕〟に及ぶものかっ。年季が違うわっ!」
鷹舟俊忠は灰色のざんばら髪を逆立て、機械仕掛けの両腕を鳴らしながら、大振りの太刀を横なぎに振るう。
「うわっ、すごいパワー!?」
「相棒、上だ。とべえっ!」
鷹舟の雷光めいた一閃は、風音をも切り裂きながら、広間を支える石柱を三本まとめて粉砕。
桃太は地面を蹴って避けるも、瓦礫に押し潰されかけた。
「小僧。お前が追放後に何をやってきたか、俺サマも大凡は知っている。〝鬼の力〟を止めたいのだろう? 木を見て森を見ない愚か者め、俺サマ達の目指すところは同じだったはずなのに!」
「鷹舟副代表。同じとはどういう意味だ?」
桃太は着地後、距離を詰めて問いかけるも――。
「俺サマは、凛音の付き人として幼い頃から支えてきた。だが、幼いあの子が〝鬼神具・ホルスの瞳〟と契約するために、目と耳を奪われたことで、危険性に気づいたのだよっ!」
鷹舟は、怨念すら感じさせる絶叫をあげながら、左の義腕を叩きつける。
機械仕掛けの拳は、一撃で床に大穴を空けて、桃太も拳圧を浴びただけで黒装束の一部が裂けて、赤い血がにじんだ。
(相棒、むやみに近づくなっ。まずは距離をとって観察しろ)
(わかった。ひとまず飛び道具で牽制する)
桃太は身にまとう風を圧縮して、かまいたちを放つも……。
「諸悪の根源は、獅子央賈南だ。あの悪魔のような女が〝鬼の力〟をばらまき、制御する研究を握り潰している。我が愛しき凛音は、あの魔女を討ち、冒険者全体のために頂点へ立つと決めたのだ」
鷹舟は剣から膨大な〝鬼の力〟をこめて赤いエネルギー波を放ち、かまいたちを消し飛ばした。
(歯が立たない。相棒、今は回避に専念だ)
(くっ。前に戦った経験もあるし、あと少しで掴めそうなのに)
桃太と乂は、剣から放たれる赤い光に追われ、逃げ惑うのが精一杯だ。
「凛音の高潔な決意に応えるために、保護者である俺サマも誓った。この世の金、名誉、力、全てを喰らい、目と耳を奪われた凛音に与えてやると」
鷹舟は太刀を大地に突き立て、機械仕掛けの両腕を鳴らしながら、〝鬼の力〟で、巨大な赤い霧の手を作り上げた。
「その為に、俺サマは一〇年前のお家騒動で停戦旗を踏みにじり、凛音にも新人の冒険者どもを生贄にするよう強いた。そうだ、俺サマが――すべてを掴む!」
広間の一角を埋め尽くすほどの鬼の手は、複数の石像を砕きながら、桃太を握りつぶさんと追い詰めてゆく。
あとがき
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