第642話 乂が託した動画、反乱首謀者の正体
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「はい、ですが、どうも乂様の把握された情報は、私が持ってきたものと違うようなのです」
「だったら千隼ちゃんも一緒に見るサメ。式神を置いて、動画再生のスイッチはここサメね、えいっ」
クマ国代表の養女である、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、クマ国防諜部隊ヤタガラスの隊員である、前髪の長い中性的な鴉天狗の少女、葉桜千隼の前で、招き猫に似た式神の背を叩いた。
「あ、光った」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、招き猫の丸々した目から光が伸びるのを見て、目を丸くする。
光は宿の壁をスクリーン代わりにして、動画を再生した。
「リン、記録を頼む。おい、無頼漢ども、クマ国語は通じるな。なんでこんな真似をした? この里の連中は、お前達と同じ〝前進同盟〟の一員だろう?」
最初に映ったのは、天狗面を横にかぶり、一本足の高下駄を履いて、山伏のような服装に身を包んだ金髪の長身少年で、桃太の相棒にして紗雨の幼馴染でもある五馬乂だ。
彼は、鍔広の羊毛帽子をかぶり、骸骨のように真っ白で角質的な軍服を身につけた〝前進同盟〟らしき軍団から、焼け出されたらしきボロボロの避難民を守るために飛び出していた。
「同胞だと? 笑わせるな。我らは栄光ある地球の支配者となるもの、〝完全正義帝国〟だ!」
「〝前進同盟〟など利用させてもらったにすぎない」
白軍服を着た男達は乂を嘲るように笑い、自らの正体を口にする。
「そんな、仲間だと思っていたのに」
「地球にある故郷を取り戻し、帰るんじゃなかったんですか?」
あまりの暴言に、クマ国人と地球人が入り混じった避難民が抗議するが……。
「黙れっ。異世界にはびこる二本足で歩く獣や、絆された愚者どもが、賢しらに言葉を口にするなっ。貴様達は我ら地球人、人間の家畜や奴隷として命令通りに死ねば良いのだ!」
桃太と、紗雨、千隼は、部屋の壁へ投影された映像を見て生唾を飲んだ。
「なんてめちゃくちゃな暴言を」
「サメ映画の悪役鮫の方がまだ愛嬌があるサメエ」
「こんな地球人はごく一部でしょうが、あまりに酷い」
三人が宿の壁に投影された映像を睨みつける中、鍔広の羊毛帽子をかぶって、骸骨のように白く角質的な軍服を身につけた、三〇人の兵士たちは堂々と役名を名乗り、犬に似た鬼面をかぶる。
「「〝鬼神具〟、〝犬鬼面〟よ、獲物をむさぼれ。舞台登場 役名宣言――〝猟犬銃鬼〟」」
そうして義腕らしきパーツをいじると、腕に直接つけられた大ぶりのナイフめいた直刀や、黒光りする銃器が現れたではないか。
「これぞ我ら〝完全正義帝国〟の切り札よ」
「我々は大義に身をささげ、サイボーグ鬼となることで、逃げる獲物を駆り立てる機械仕掛けの刃と銃を使うことが可能となったのだ」
サイボーグ兵達は、まるで舌なめずりでもするように傷ついたクマ国の避難民達を嘲笑った。
「ひいっ」
「やめてうたないで」
「なら直接解体してやろう。ひゃっはああ」
老若男女を問わず怯えの声をあげる非武装の民間人に対し、最前列にいた五人の兵士が義腕から伸びる直刀で切りかかる。
しかし、それを見過ごす乂ではない。
「エキサイティング! 久方ぶりの出番だ。派手にやるぜ、瑞風螺旋脚!」
「「ぐはああっ、こんな一撃でえええ」」
しかし、乂は背中に傷ついた民衆を庇一本足の高下駄を履いた足に暴風をまとった蹴りを浴びせかけ、山の木々へと叩きつけた。
「ウート(やったぜ)! オーケー、お前たちは〝前進同盟〟じゃなく、離反した〝完全正義帝国〟ってことだな。凛音が昔率いていた〝C・H・O〟と類似のサイボーグのようだが、生憎オレは対処法に慣れているのさ」
そうして乂は、兵隊達の前へ堂々立ちはだかった。
「リン、今からもっとカッコつけるから、ちゃんと録画しておけよ」
あとがき
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