第641話 情報錯綜
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「オウモさんや黒騎士が里を焼いただって? そして、カムロさんが、前進同盟を討伐する? なんてことだ。なんてことだっ!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラスの小隊長、葉桜千隼から内乱が起きたことを知らされ、宿部屋の畳に荷物をこぼして立ち尽くした。
「出雲様。落ち着いてください。カムロ様が出陣された以上、反政府団体を気取った大量殺人者達であっても、敵ではありません。すぐに鎮圧なさることでしょう」
「ああ。師匠は、カムロさんは本気でオウモさんや黒騎士を、〝前進同盟〟を潰す気だ。彼らが蜂起してから、半日もたたずに討伐軍を組織するだなんて、いくらなんでも早すぎるっ」
桃太は、酸素を求めて喘ぐように息を吸った。
異世界クマ国は、鉄道と〝転移門〟で各地の里を結んでいるものの、軍の組織が一朝一夕で終わるはずがない。
(カムロさんは、ここウメダの里で別れた時、ヒスイ川のハンラン対策に向かうと言っていた。それでも凶行を止められなかったのか)
カムロがコウナン地方で軍事演習中だったことは、〝前進同盟〟も把握していたはずだ。
彼の眼前で、前進同盟側の勢力圏にある里を五〇も焼き討ちにするなど、オウモも黒騎士も正気をかなぐり捨てたとしか思えない。
「わかった。俺も仲間達に伝える。千隼さんはウメダの広場にいる、田楽おでんさんにも伝えてほしい」
「わかりました。失礼しま……」
千隼が長く伸ばした前髪からのぞく黒い瞳を伏せて一礼し、宿部屋の窓から中庭へ飛び出そうとしたまさにその瞬間、彼女の機先を制するように、空飛ぶ銀色のサメが飛び込んできた。
「桃太おにーさん。ガイからとんでもない連絡がきたサメ! クマ国の反政府団体〝前進同盟〟内部で反乱が起きたみたい」
空飛ぶ銀色のサメは桃太に抱きつくや否や、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨へ姿を変えた。
桃太は彼女の言い分に目を丸くする。
「ええっ、クマ国で内乱が起きたじゃなくて、〝前進同盟〟の内部で反乱が起きただって?」
桃太はまさかの展開に腰を抜かしかけるも、意外ではないと思い直した。
(オウモさんは手広く商売をやり過ぎた。
日本だけでも、一葉の〝J・Y・O〟、四鳴の〝S・E・I〟、六辻〝SAINTS〟、七罪の〝K・A・N〟のようなクーデターを起こした勇者パーティと懇意だったし、最近じゃ石貫満勒が新設した冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟を支援していると聞いた。
海外も含めれば規模が大きくなり過ぎて、統率できなくなっていても不思議はない。ひょっとしたら彼女が留守にしていたクマ国じゃ、乗っ取りだってできるんじゃないか?)
桃太と同じ疑念を、防諜部隊ヤタガラスの隊員である千隼も抱いていたらしい。
「まさか、いや、やはり、か。紗雨姫、本当なのですか?」
「な、なんで葉桜さんがいるサメ? そっか、ジイチャンが連絡を寄越してくれたサメね」
紗雨は葉桜千隼が桃太の部屋にいたことに驚いたものの、緊急事態ゆえかすぐに受け入れたらしい。
「はい、ですが、どうも乂様の把握された情報は、私が持ってきたものと違うようなのです」
「だったら千隼ちゃんも一緒に見るサメ。式神を置いて、動画再生のスイッチはここサメね、えいっ」
あとがき
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