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第640話 クマ国騒乱、新たなる戦いの幕開け

640


 西暦二〇X二年九月一日。

 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたは、日本政府と冒険者組合より預かった親書を、異世界クマ国の代表カムロに手渡した後、各地を視察し、親善任務を終えた。

 そうして地球日本への帰路につくべく、ウメダの里の旅館で割り当てられた個室で、出立の準備をしていたのだが……。


「出雲様、出雲様!」


 桃太は、クマ国へ入国する際に縁のあった前髪の長い中性的な鴉天狗からすてんぐ葉桜千隼はざくらちはやが自身の名を呼び、黒い翼をはためかせながら中庭に舞い降りる姿を見て、慌てて部屋の窓を開けた。


「カムロさんが言っていた迎えの使者は、葉桜さんのことだったのか。玄関を通らずに中庭に降りちゃっていいの?」

「ヤタガラス隊は、緊急事態において民間施設への立ち入りを許可されるんです」


 桃太が宿の引き戸を全開にするや、防諜部隊ヤタガラスの小隊長でもある少女、千隼は窓から中へとすっとんできた。


「出雲様。紗雨姫、そして冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドレンチャラーズ〟のみなさんと共に、今すぐクマ国から退避してください」


 そうして、長く伸ばした前髪の下からもわかるほどに真っ青な顔で、桃太達にクマ国からの脱出を勧めたのだ。


「本日未明、反政府団体〝前進同盟ぜんしんどうめい〟が武力蜂起しました。彼らの勢力圏にあったキソの里の周辺、コウナン郡にあった五十を超える里が一夜のうちに焼かれました。被害者は少なく見積もっても二〇万人以上です」

「うそ、だろ」


 桃太は衝撃のあまり、背負い袋に詰めていた着替えや携帯食料をバラバラと取り落とした。


「あの、オウモさんがそんな焼き討ちをしたのか? リッ……黒騎士が止めなかったのか?」


 桃太は、地球日本の元八大勇者パーティのひとつで、テロリスト団体に堕ちた〝S・E・Iセイクリッド・エターナル・インフィニティ〟が地上に大規模電気異常をもたらした際に、〝前進同盟〟と共闘した経験がある。

 オウモはカムロの方針にこそ中指を立てていたものの、地球の民間人救出にも力を尽くす理性的な指導者であり……。

 彼女の懐刀の黒騎士も、悪党を撃つのに躊躇いはないにせよ、むやみに里を焼くような危険人物ではないはずだ。


「詳細は不明ですが、カムロ様はコウナン地方で演習中だった部隊をまとめあけ、討伐軍を結成。前進同盟の蛮行を阻止するため、反乱軍が集結中のヒスイ川へ向かわれました。出雲様には伝言が込められた巻物を託されています」


 桃太が震える手で巻物の封印を開くと……、空に黒々とした煙がたなびき、鴉天狗や獣人の兵士たちが血に濡れた担架を手に、焼け跡となった村を走り回る光景が映し出された。

 桃太の師匠であるカムロが沈痛な面持ちで、映像の中心へと進み出る。


『桃太君、僕の不徳から〝前進同盟〟との戦争が起きてしまった。クマ国内部の問題ゆえにキミ達を巻き込みたくない。ウメダの里付近にある転位門ゲートを使い、地球日本へ戻って欲しい』


 カムロは、短いながらも精一杯の言葉を託してくれた。


「あ、あ」


 桃太はクマの里を出てクマ国各地を回った際の平和な街並みと、焼かれた廃村の姿が重なって、震える指で巻物を握りしめた。


「オウモさんや黒騎士が里を焼いただって? そして、カムロさんが、前進同盟を討伐する? なんてことだ。なんてことだっ!」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
カムロとオウモ、双方が(暗黙の裡に)了承してる暴発でしょうねぇ
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