第636話 驚天動地の疑惑
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「誰も把握していない八岐大蛇の首、幻の九番目の正体だが、妾はクマ国代表カムロではないかと、疑っている」
昆布のように艶のない黒髪の少女に化けた、八岐大蛇の首の化身、伊吹賈南のとんでもない暴論を聞いて……。
「師匠が!?」
カムロの弟子である、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は驚きと反発で右拳を握りしめ――。
「ジイチャンが!?」
カムロの養女であるサメの着ぐるみをかぶった少女、建速紗雨は、銀色の髪を逆立てながらしっぽかざりを伸ばして戦慄し――。
「伊吹童子よ。異界迷宮カクリヨ最奥の玉座にある宝玉は、八岐大蛇の首の候補者の名前が刻まれると言っていなかったか? そして九番目の首はカムロではなく、空欄だったのじゃろう?」
クマ国創世から二〇〇〇年を生きる付喪神、赤いサマースーツを着た麗女、田楽おでんは目を大きく見開いて嘆息した後、感情のこもらない棒読みで尋ねた。
「田楽おでん。妾だってこの一ヶ月、クマ国でただ観光に興じていたわけではない。各地の歴史資料や伝承を漁り、カムロ……クマノカムロノミコトの名前が、スサノオの別名だということは突き止めた」
桃太達三人から反発を受けてなお、賈南は若返って薄くなった胸をはり、堂々と宣言した。
「つまり、カムロとは〝役名〟であって〝名前ではない〟! 奴の正体こそは八岐大蛇、幻の九番目の首、名前のない竜だったんだよ!」
これが、悪意のないジョークであれば、桃太や紗雨も「な、なんだってー」と大仰なリアクションをとったことだろう。
「賈南さん、それは、カムロさんの本名が別にあるかも知れない、というだけの話だ」
「ジイチャンは、昔から家族や里長に、〝自分が本物のスサノオじゃなくて影武者〟、つまり代役だって伝えていたサメ」
しかし、二人にとって、賈南の言い分はとうてい受け容れられる内容ではなく、怒りで頬を紅潮させて反発した。
「そう、出雲桃太の言うとおりだとも。二〇〇〇年前、クマ国創世の時代に、異世界〝高天原〟より神々を率いて現れたリーダー武神スサノオ、その代役を務めてカムロの〝本名が別にある〟ことが重要なのだよ。
そこらの馬の骨が、いともたやすく異世界クマ国の代表に上り詰め、先住民たる田楽おでん達に認められて、八岐大蛇の首六つと、一〇〇体の候補者の命を刈り取ることができると思うか?」
賈南の問いかけには、有無をいわさぬ迫力があった。
「妾にはスサノオの代役、カムロを演じることがが可能な、名前のない――否、〝名前を奪われた竜〟に心当たりがある。
すなわちカムロの正体こそは、神話の時代にスサノオをもっとも追い詰めた最初の番外ナンバー、邪悪竜ファヴニールに違いあるまい!」
あとがき
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