第633話 誰も知らない番外ナンバー
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「半世紀前、破竹の勢いでクマ国を席巻していた我ら八岐大蛇の軍勢は、突如として姿を現したスサノオの再来、カムロによって打ち倒された。異界迷宮カクリヨの奥地、我らが本拠地にある〝一〇八の宝玉〟からは、〝六つの首と候補者一〇〇体分の光〟が失われ、〝三つの光〟が残った。どうだ、何かおかしいとは思わんか?」
昆布のように艶のない黒髪の少女、伊吹賈南が明かした決戦の結末を聞いて……。
「おかしいって、カムロさんが強いってこと? 残ったのは賈南さんと、参加しなかったファフ兄の二人だから流石だよね」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、改めて師匠たるカムロの強さを実感するも、はっと息を飲んだ。
「あれ、一〇八から一〇六を引いて三つ?」
「二つじゃなきゃ、おかしいサメエ」
「数え間違いでないのなら、辻褄があわんな」
桃太をはじめ、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨も、赤いサマースーツを着た麗女、田楽おでんも、賈南が話した決戦の結末、その異常さに気づいてしまう。
遊戯用迷宮〝U・S・J〟の地下三〇階に集まった面々の反応に対して、賈南は我が意をえたりと頷いた。
「そうとも、数があわないのよ!
カムロはおよそ半世紀前、当時の八岐大蛇……
第二の首 テスカトリポカ
第三の首 スペースドラゴン
第四の首 デスドラゴン
第六の首 カウアドドラゴン
第七の首 リジェネドラゴン
第八の首 スニークドラゴン
と、次代の候補一〇〇体をまとめて打ち倒してしまった。
生き残っていたのは、第一の首、伊吹童子である妾、戦いに参加しなかった第五の首たる隠遁竜ファフニールだけのはず。
にも関わらず、邪悪竜ファヴニール以来の、我々があずかり知らぬ〝名前のない〟番外席次が存在していたのだ」
桃太達は賈南が明かした情報に息を呑んだ。
「賈南さんは、異界迷宮カクリヨの奥にある玉座には、八体の党首と、百体の番外メンバーの名前が刻まれるって言っていたよね。カムロさんが一〇六体を討った瞬間に、たまたま有資格者が現れたのか?」
「……そもそも名前をもたない竜っているんだサメエ?」
桃太も紗雨も賈南の明かした情報の危うさをようやく認識した。
「妾達はカムロを狩るために、当時のドラゴンの最精鋭を動員した。発言力を増す良い機会なのに、有資格ギリギリの候補が参加を見送るとは考えられんし……。サアメの言うように、ドラゴンが名前をもたないこと自体、普通ではあり得ない」
賈南は情報を整理することで、改めて非常事態であると再認識したのだろう。頬から血の気が引いていた。
「そうだ。我ら鬼は他者を食い散らかし、自身を誇示する欲望の塊よ。
下剋上のために身を潜めることはあっても、頭になるチャンスを得てなお、隠れひそむなど考えるはずもない。
そして、名前を変えることはあっても、自身を定義する名前がない存在しない鬼や竜など――〝カクリヨにいるはずがない〟のだ」
どうやら賈南自身も、正体不明の〝名もなきドラゴン〟を恐れているようだ。
「結局、名称不明のドラゴンは人前に一度も姿を見せることなく、半世紀をかけて九九体の予備ナンバーが埋まってゆき、八岐大蛇の首にも、成長した他のドラゴンが就任した。しかし、正体不明の有資格者は依然としてどこかに存在している。ゆえに、もっとも新しい八岐大蛇の首のゼロ番、あるいは九番と呼ばれるようになったのよ」
あとがき
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