第631話 ファフ兄と八岐大蛇の首と
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「結局消されて、今では名前も明らかで無いが……。その革新的なドラゴンは、絶大な戦果をあげて死んだために、〝九つめの首〟。すなわち、名誉枠として敬われていた邪悪竜ファヴニールの存在を大義名分に、百体までの番外ナンバーを認めることにしたのよ。徒党を組み、政治をもたらすことで、流血を少しでも抑えるために、な」
八岐大蛇の首、その化身である伊吹賈南の語る歴史を聞いて……。
「百体もの番外ナンバーだって!?」
「一体じゃなくて、そんなに居たんだサメエ!?」
地球日本の新たな勇者と目される、出雲桃太と、異世界クマ国代表の養女たる建速紗雨は大きく目を見開いた。
「うむ。異界迷宮カクリヨの最奥にある玉座では〝鬼の力〟が一定に達すると、一〇八ある宝玉が灯もり、名前が刻まれる機構が創られた。その中から大将たる八鬼が選ばれることで、闘争を最小限に抑えたのだ」
賈南と二人で会話した際に激発した反省からか、黙って会話を聞いていた付喪神、田楽おでんも興味津々と身を乗り出す。
「なるほど興味深いのう。つまり、八岐大蛇には、今、首として数えられている八体以外にも、一〇〇体の候補者がいることになる」
「その通りだとも。予備といえば聞こえは悪いが、次代を継ぐ候補が明確となることで、八体の大将と傘下派閥の間に、牽制や駆け引きが生まれた。地球の選挙制度とまではいかずとも、話し合いの余地が生まれて、無思慮なコロシアイに歯止めがかかったのさ」
賈南は深く息を吐くと、いよいよ核心へと話を進めた。
「出雲桃太の相棒、五馬乂が所持している短剣。あれに封印された第五の首、隠遁竜ファフニールもまた、そんな番外ナンバーのひとつだったのよ」
桃太は恩人であり、戦友でもあるファフニールの過去を知って、ごくりと生唾を飲み込んだ。
「ファフ兄も、元は番外ナンバーだったのか」
「もっとも異界迷宮カクリヨと異世界クマ国へ繋がるゲートは長きにわたり封印されていた。ファフニールは候補者として玉座の宝玉に刻まれていたが、行方知れずゆえに八岐大蛇の首に就任することはなく、妾達もずっと気にしなかった。が……」
賈南は困ったように額をぬぐった。
「およそ半世紀前、異界迷宮カクリヨの戦力が充分に拡大した頃。地球で某国が起こした兵器実験の結果、三つの世界が繋がった。
その時、真っ先に偵察へ出た第五の首ウロボロスが、クマ国で隠遁竜ファフニールを見つけ出し、強引に自らの跡目を譲ったのだ。
なにやら揉めたらしいが、父の弥三郎から聞いたところによると、ウロボロスは残り七体の反対を力づくで押し切って、認めさせたそうだ」
「それでいいんだっ!?」
桃太は、相棒である五馬乂がもつ〝鬼神具〟。錆びて赤茶けた短剣の中でニートを決め込んでいるファフ兄が、なぜ八岐大蛇の首をやっているのか疑問だったが、賈南の過去語りを聞いてようやく腑に落ちた。
「本人や周囲が望んでいなくても、推す者の力が強ければ八岐大蛇の首になれるのか……」
あとがき
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