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第630話 異界迷宮カクリヨ、コロシアイ制度の変化?

630


「そうだ。サアメの言う通り、古の異界迷宮カクリヨは地獄もいいところよ。弱肉強食といえば聞こえはいいが、内紛を続けていては、軍勢も弱まるばかりだ」


 昆布のように艶のない黒髪の少女、伊吹賈南いぶきかなんは吐き捨てるように告げた。


「賈南さん」

「賈南ちゃん」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたと、彼の隣に立つサメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨たけはやさあめは知っている。

 賈南の正体は異界迷宮カクリヨの総大将、八岐大蛇やまたのおろちの首のひとつ、伊吹童子いぶきどうじだ。

 だが、その彼女が地獄と罵るほどに、かつての故郷のありさまは、おぞましいものだった。


「ねえ、賈南さん。地球だって争いとは無縁じゃない。でも、少しずつ変わってきたんだ」

「そうサメエ。戦争がないことは、他の問題がないことは一緒じゃないサメエ」


 桃太と紗雨はなだめようとするも、賈南は首を横にふった。


わらわが引き継いだ当時の記憶では、こうやって、会話を交わすことすらなかったのだ。あるのは一方通行な殺意が飛び交う冷徹なコロシアイ制度だけ。

 無論、カクリヨにも、体制を変えようする者いた。なにもかもを自然のままにしろと唱える獣鬼。鉄の規律と粛清が必要だと叫ぶ悪魔。多種多様な思想を掲げたドラゴンが現れた。

 だが、彼や彼女達は多様性を尊ぶのではなく、むしろ多様性という言葉尻を鉾や盾に変えて他者を排撃し、己が思想一色で染め替えることを望んだのよ。

 〝融合術〟で引き継いだイデオロギーがそうさせたのかも知れんが、〝自分たちだけが選ばれしものだ〟という傲慢さは、我らの祖をさらなる殺戮へと走らせた。その先に待つのは当たり前のような崩壊だ」


 賈南は、煌びやかな栄光と力に恵まれた者達が他者を喰らう悪鬼となりはてるという、負の螺旋に対して嫌悪を隠そうともしなかった。


「結局、民を愛さぬ指導者が導く政体など、理屈倒れで滅ぶのが常さ。地球の興っては滅ぶ国だってそうだろう? 旗にかざすのが自由にせよ秩序にせよ、極端な国ほど短く、ある程度の寛容さと規律を兼ねた中庸ちゅうような国が長生きしているではないか」


 賈南は、場を提供してくれた二千年を生きる付喪神、田楽おでんに向けて片目をつむってウインクした。

 どうやら賈南なりに、二度の世界変革に関わったおでんを評価しているらしい。


「それでも変化は訪れた。いや、掴み取ったというべきか。異界迷宮カクリヨの中で八体の頂点に立つために、……怨敵を、隣人を、家族すらも殺しつづけることおよそ五〇〇年。八岐大蛇の首にようやく冷静なドラゴンが現れたのだよ」


 賈南の声色はわずかに弾んでいた。


「結局消されて、今では名前も明らかで無いが……。その革新的なドラゴンは、絶大な戦果をあげて死んだために、〝九つめの首〟。すなわち、名誉枠として敬われていた邪悪竜ファヴニールの存在を大義名分に、百体までの番外ナンバーを認めることにしたのよ。徒党を組み、政治をもたらすことで、流血を少しでも抑えるために、な」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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>〝融合術〟で引き継いだイデオロギーがそうさせたのかも知れんが、〝自分たちだけが選ばれしものだ〟という傲慢さは、我らの祖をさらなる殺戮へと走らせた。 並行世界覗き魔「実に素晴らしい世界です」
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