第628話 鬼の軍勢、ドラゴン達の誕生
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「今から貴重な情報を明かすぞ。わしを含めて、異界迷宮カクリヨに生息する鬼の軍勢の正体と歴史、その一端を」
「鬼の軍勢の正体だって?」
西暦二〇X二年八月三一日夜。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、遊戯用迷宮〝U・S・J〟の地下三〇階にある深海水族館で、八岐大蛇の首の化身、伊吹賈南から、これまで謎だった鬼の軍勢について明かすとの発言を聞いて、おおいに驚いた。
「賈南ちゃん。やっぱり、サメ映画みたいなドラマティックな歴史があったサメエ?」
「サアメのサメ映画への思い入れは置いといて、我々ドラゴンの祖先は、共通した能力を身につけた術者達の集まりだった。すなわち――〝融合術〟――だ」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨の問いに対する賈南の回答を聞いて、彼女も桃太も面食らった。
なぜなら、桃太も紗雨も、先の田楽おでんとの戦いで、自分たちが使う〝忍者〟や〝行者〟、あるいはおでんとみずちが使う〝北欧神オーディン〟への合体変身が――〝融合術〟――の一種だと聞いていたからだ。
「念のため補足するが、クマ国で開発された合体変身術が〝肉体を仮面に変え、心を重ねて強くなる〟という安全な術なのに対し――。
我らドラゴンの融合術は、〝生贄を無理矢理に取り込んで己が力に変える〟という危険極まりない代物だ。
黒山犬斗が馬鹿すぎて御しきれなかったゆえか、出雲桃太らレジスタンスにとどまらず、手勢だった八大勇者パーティのひとつ〝C・H・O〟すらも喰らおうとした第一の首。
四鳴啓介と一体化し糸を触媒に、〝鋼騎士ギガース〟や〝蛇髪鬼ゴルゴーン〝〝神鳴鬼ケラウノス〟を操った第四の首。
七罪業夢が喰われて顕現し、自分の部下諸共に冒険者パーティ〝W・A〟の仲間達をも同じドラゴンに変えようとした第七の首。
ああいった手法こそ、我々が祖先から受け継いだ――〝融合術〟――なのだ」
賈南はとつとつと語る。
「クマ国の前世界では、そこまで外道な術ではなかったが、〝使えば死ぬ〟くらいの禁術じゃったよ。そうか、進化を続ければ、そこまで成り果てた可能性もあるのか」
おでんは、昔の危険だった頃の融合術を知っているせいか、そこまで動揺は無かったようだ。
「賈南さんは、そんな真似をして大丈夫なのか?」
「サメメ……。賈南ちゃん、危ないことはやめよ」
しかしながら、桃太も紗雨も真っ青になって駆けより、賈南を困惑させた。
「落ち着け、今は歴史の話をしておる。それと、〝鬼の価値観〟であればともかく、〝人間の価値観〟では大丈夫なわけがあるまい。精神は汚染され、肉体は異形化し、悪鬼、あるいはドラゴンと呼ばれる存在へと変貌を遂げた。二人とも、これまでさんざん見てきただろうから、今更説明はいるまい」
桃太と紗雨は沈黙する。二人は確かに多くの実例を目にしていた。
「一千年前、鬼に堕ちたドラゴン達は自らの世界の何もかもを食い尽くしたが、やがて満足できなくなって徒党を組み、あまたある他世界へと侵略を開始した。そんな星喰らい達が目をつけた異世界の一つがクマ国だったわけだが……カミムスビとスサノオ達にこっぴどくやられて次元の狭間へ封印された」
あとがき
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