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第626話 桃太と紗雨、賈南とおでん

626


わらわが知りたいのは――――だ」


 昆布のように艶のない黒髪の少女に化けた八岐大蛇の化身、伊吹賈南いぶきかなんが絞り出すような小さな声でささやいた問いかけに対し……。


「可能じゃ」


 鴉の濡れ羽がごとき黒髪が美しい、赤いサマースーツを着た二千年を生きる付喪神、田楽おでんは呆気に取られたように、シンプルに答えた。


「じゃが、賈南よ。その願いを叶えようとするなら、其方は間違いなくクマ国の、そして地球の敵となる。カムロばかりか、桃太君達とも戦うことになるぞ?」

「望むところよ。妾は勝ちたい。あやつらに勝った上で、願いを叶えたい。神槍ガングニールの付喪神よ。貴方がかつて世界を壊そうと古き世界に挑んだように」

「……」


 賈南が選んだ道を、おでんはもう止めようとはしなかった。


「田楽おでん。妾の願いを触れ回るかどうかは、そちらに任せる。ただし」

「交渉は無用。わしの胸に留める。其方が動き出すその時まで、カムロにも桃太君にも明かさぬと誓おう。ひいてはそれがクマ国と地球のためになるじゃろう」


 おでんはしかめ面して、満足げにカラカラと笑う賈南を見た。


「時代を動かすのは、今を生きる者達ということか。隠者は隠者らしく、舞台袖で協力しよう。表彰式のあと、桃太君と紗雨ちゃんと一緒に地下三〇階まで招く。そこで話の続きをしよう」


――

――――


 かくして西暦二〇X二年八月三一日の夜。

 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女、建速紗雨たけはやさあめは、遊戯用迷宮〝U・S・Jウメダのすごいジャングル〟の非常用転移装置を使って、地下三〇階、深海水族館エリアにやってきた。


「えーっ、本当は賈南さんも最下層まで到着していたんですか。それもたった一人で?!」

「びっくりサメエエ。賈南ちゃん、凄いサメエエエ!」

「いやあ、それほどでもあるかなあ」


 桃太と紗雨に誉めそやされて、賈南はいつになく上機嫌だった。


「……クマ国の姫君と、地球の勇者、異界の魔王が仲良く言葉を交わす、か。一千年前には考えられなかった光景よ。やはり、時代は変わりつつあるのじゃな」


 おでんは眼前の光景に複雑なオモイを噛み締めたものの、早速本題に入ることにした。


「ごほん。伊吹童子――賈南の欲する迷宮踏破の報酬は情報交換でな。既にわしの情報は渡したが、彼女がくれるという情報は八岐大蛇に関するものゆえ、桃太君や紗雨ちゃんの目的を果たす手ががりになるやも知れんと思い、立ち合ってもらった」


 桃太は、師匠であるカムロが目論む、地球と異世界クマ国、異界迷宮カクリヨの三世界分離計画を阻止するために……。

 紗雨は、失われた自分の家族を殺した真犯人を知るために……。


「おでんお姉さん、ありがとうざいます」

「オネーチャン、ありがとサメエ」


 二人はそれぞれの理由から、八岐大蛇の情報を欲していたのだ。


「可愛い弟妹のためよ、礼には及ばない。それに正直なところ、信じがたい情報じゃ。伊吹童子、いやさ賈南、もう一度話を頼む。八岐大蛇、幻の首について、のう」

あとがき

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>「びっくりサメエエ。賈南ちゃん、凄いサメエエエ!」 >「いやあ、それほどでもあるかなあ」 紗雨「道中ではどんな問題が出されたサメェ?」 昆布「クマ国の伝統料理を……(蘇るかつての宴の記憶)。うぷ」
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