第624話 新旧ラスボスの情報交換
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「アハハ、田楽おでん。いやさ、神槍ガングニールめ、引退した元ラスボスみたいな存在が言ってくれる。妾はただ、過去と未来、ラスボス同士のよしみとして情報交換をお願いしたいのだ」
昆布のように艶のない黒髪の少女に化けた八岐大蛇の化身、伊吹賈南は、二千年を生きる付喪神、田楽おでんに対して意外な提案を試みた。
「交換? 情報を寄越せと願いにきたのではないのか?」
「うむ。遊戯用迷宮〝U・S・J〟の最下層へ到達した者には、賞品として〝叶えられる限りの願い〟を叶える、だったか。妾と汝は敵対する立場だからこそ、一方的な願いを要求しても承知しないだろう。だが、対等な取引ならどうだ?」
賈南の軽々しい口調に、おでんは真意を見極めようと目を細め、
「カカカ。情報次第じゃな。たとえば桃太君の下着を教えてくれと言ったら調べてくれるかのう?」
「おう。この前カバンを漁ってみたら、トランクス派だったな」
直後、おでんは無人島の大岩を両断した手刀で、賈南に向かって斬りかかった。
「あぶなっ。今かすったぞ。仲直りの握手をしたばかりだろうにっ」
賈南はビュウという空気を切り裂く風音を聞いた瞬間、横っとびに飛んで直撃を避けるも、余波をあびたソファが大量の綿をまき散らしながら、真っ二つになった。
「悪逆無道のヘビ娘め。桃太君のお姉ちゃんとしては、弟の周囲をうろつく不審者は潰しておかんとなあ」
「不審者というなら、姉を騙る他人も大概だろうに!」
おでんと賈南は隠し部屋とデッキにわかれて睨み合い、再び一触即発の張り詰めた空気が流れる。
「えーいっ。これではラチがあかん。年配に配慮して、先にこちらの情報を晒そう。八岐大蛇の首は八体と思われているが、幻の九番目がいるというのは知っているかね?」
賈南は交渉相手にヘソを曲げられるとまずいと判断したのか、先にカードを切った。
「ちっ、どこのガセ情報じゃ? ひょっとして地球で流行っているという、特殊詐欺でも働こうというのかの。馬鹿にするな、ひよっこがお姉ちゃんを騙そうなんて年季が百年分は早いわい」
「おいおい百年分って、そっちこそ時間の感覚が狂っているぞ」
おでんは舌打ちして取り合おうとはしなかったが、賈南はめげずに話を続けた。
「田楽おでん、考えてもみろ。八岐大蛇にせよ、八俣雄呂血にせよ、漢字をそのまま読むなら、〝八つの分かれ目がある大蛇〟なのだから、頭がもうひとつないと数が合うまい? それこそが幻の九番目の首なのだ」
あとがき
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