第623話 戦いの後に友情は芽生える?
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「誰が姉バアサンで、誰が孫かっ。乂君直伝、アルゼンチンバックブリーガーっ。しねえ!」
「ですよねえええっ。ぐはあ!!」
鴉の濡れ羽がごとき黒髪が美しい、赤いサマースーツを着た付喪神、田楽おでんは、昆布のように艶の無い不健康な少女に化けた八岐大蛇の化身、伊吹賈南を仰向けにして背負うと、顎と腿を掴んで背中を弓なりに反らせた。
「ギャアアアアア。ぎぶアップ、ぎぶあっぷ。おたすけええ」
深海水族館に悲鳴が木霊してからしばらく後――。
おでんは一方的に叩きのめしたことで溜飲をさげたのか、ようやく賈南に対する殺意を収めた。
「おいおい、冒険者の癖にスタミナが無いのう。担当教諭の矢上遥花は、こやつに何を教えているのか? わしと戦った四人の爪垢でも煎じて飲むがいい!」
「ぜーはーっ、逆だ。出雲桃太と建速紗雨、呉陸羽と呉栄彦がおかしいのだ。文明人はこんな古代文明ゴリラと戦うように出来ちゃおらん」
一方の賈南は、ようやく解放されたものの、息を切らして今にも倒れそうだ。
煽りに煽った自業自得といえど、命懸けの鬼ごっこを経て、おでんから容赦ない制裁を受けたのだから無理もあるまい。
「伊吹童子。異界迷宮カクリヨを統べる総大将の一人が、恥ずかしげもなく我が城へ踏み入った。……と言いたいが、これだけ追い回しても八岐大蛇の力を使わぬとは意外じゃな」
「田楽おでん。妾は出雲桃太と約束したからな。冒険者パーティ〝W・A〟の一員として戦う間は、どこまでも人間として戦う」
賈南のややもすれば疑わしい台詞を、おでんは意外にも信じたらしい。
「戯言を、と切って捨てたいところじゃが……。式神からの映像を調査したかぎり、少なくとも〝U・S・J〟にいる間は、人間並の力しか使った形跡がないな。大蛇の力に頼らず、我が人形達をよくも乗り越えられたものじゃ」
「アハハ。妾には祖先から継いだ記憶がある。だから、階層ボスであるスフィンクスのクイズに答えられるのだ。それ以外は、出雲桃太達がお邪魔虫人形を倒した後を、こそこそ隠れて追跡しただけのことよ。しかし、地下二九階はキツかった。寒すぎて危うく冬眠しかけたとも」
賈南がケラケラと笑う前で、おでんはわずかに見直したか右手を差し出した。
「それでも、単身で我が迷宮を踏破したことは、賞賛に値するじゃろう。ほれ仲直りの握手じゃ」
おでんは賈南の差し出された右手を握りしめ、立ち上がらせながら訪ねた。
「伊吹賈南。いや、敢えてこう呼ぶぞ。八岐大蛇が第一の首、伊吹童子よ。ラスボス候補が何のようじゃ。わしの首をとりにきたのではないのか?」
おでんの問いに対し……。
「アハハ、田楽おでん。いやさ、神槍ガングニールめ、引退した元ラスボスみたいな存在が言ってくれる。妾はただ、過去と未来、ラスボス同士のよしみとして情報交換をお願いしたいのだ」
あとがき
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