第61話 クリスマス決戦
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西暦二〇X一年、一二月二四日。クリスマス・イブ。
出雲桃太と仲間たちが集うレジスタンスは、異界迷宮カクリヨの第五階層〝妖精の湖畔〟から、第四階層〝雲竜の丘〟へと昇った。
「雲と龍をかたどる白い岩カッコいいっ。じゃなかった、衝撃と音のソナーを使用するっ」
桃太がトンと地面を叩くと、衝撃が波となって、白い岩が螺旋状に渦を巻く丘を走り、元勇者パーティ〝C・H・O〟が〝鬼の力〟で隠した人工の洞窟、秘密基地の構造を丸裸にする。
「矢上先生、隠された入り口はあっちで、内部はこんな感じです」
「さすがね、桃太君。よくできました」
遥花は桃太をそっと抱き寄せたあと、彼の髪をすいて十字傷の刻まれた額を撫でた。
「この地図を写して、全員分を用意するわ。お姉さん達が守備隊の注意を引きつけるから、その隙に乂君、紗雨ちゃんと一緒に異界兵器〝千曳の岩〟を破壊するか、三縞代表を説得するの。お願いできる?」
「はい、やってみます!」
最後の戦いが始まり、桃太達は戦力を二手に分けて、秘密基地攻略にとりかかった。
「舞台登場 役名宣言――〝賢者〟! 出雲君を、生徒たちを守るのがお姉さんの務め。これより矢上遥花が作戦指揮を執ります。攻撃開始!」
遥花は揺るがぬ決意を〝鬼面〟に変えて被り、レジスタンスの先頭に立って、秘密基地を猛然と攻め立てた。
桃太の事前調査で内部構造まで把握していた上に、彼女が率いる部隊には、元生徒である柳心紺、祖平遠亜、林魚旋斧ら研修生に加え、協力する元団員が二〇〇人参加して、充実した戦力があった。
「こちら見張り台の〝斥候〟。緊急警報! 侵入者アリ……って、何十人、いえ何百人いるの?」
「そもそも、レジスタンスは秘密基地をどうやって見つけたんだ? 物資もまるで届かないし、他の隊はいったい何をやっている?」
一方の〝C・H・O〟が保有する戦力は、もはや秘密基地に残る数十名に過ぎず、戦闘用の物資すら尽き掛けていた。
「〝夜叉の羽衣〟よ、力を貸して!」
「うおおお、体から力が湧いてくる」
遥花は髪に結んだ赤いリボンを輝かせながら、踊るようにステップを踏んだ。
彼女の薄い緑と藍色のフリルワンピースから伸びた色とりどりのリボンが、友軍に触れては彼らの身体能力を底上げする一方――。
「強化など小賢しい真似をっ、殺せ殺せえ」
「破壊しますっ」
〝夜叉の羽衣〟の端末となったリボンは、弓や魔法で遠距離攻撃を仕掛けてくる、基地守備隊の〝斥候〟や〝黒鬼術士〟が籠る、円形の防御陣地に巻きついて火をつけ、氷漬けにして粉砕する――。
「おのれ、革命の大義もわからぬ愚者どもが。何度同じ間違いを繰り返すのか!」
「いいかげん、正気に戻れ。間違えたのは他の奴じゃない、お前たちだ!」
続いて、林魚ら〝戦士〟部隊が、半壊した防衛陣地に飛び込んで負傷した敵戦力を制圧――。
「こうなったら、強いやつと戦うな。弱い奴だけを狙え」
「前線を支えながら、心紺ちゃん達の狙い易い場所まで、敵遊撃部隊を誘導します」
祖平ら〝白鬼術士〟部隊は、〝斥候〟部隊と共に傷ついた友軍を治療しつつ、敢えて囮となって敵の戦士部隊を誘導――。
「死ね死ね死ねええっ」
「やるね、遠亜っち。鬼の矢、一斉発射」
柳ら〝黒鬼術士〟部隊が、囮に釣り出された敵部隊を、数に任せた鬼術で薙ぎ払う――。
「皆が注意を引いてくれる。今のうちに隠し通路を進むぞ!」
出雲桃太は仲間達の善戦に頭を下げると、ベルトに錆びた短剣を差し、左手首にひびの入った勾玉を巻き付けて走り出す。
「シャシャシャ! これぞシークレットミッション!」
「ガイはもうちょっと声を小さくするサメ……」
彼の右肩には黄金の蛇、五馬乂がとぐろを巻き、左肩には白銀のサメ、建速紗雨が腰掛けている。
三人は、派手な戦闘が繰り広げられる要塞内を忍び足で駆け抜けた。そして、遂に――。
「見つけた! あれが異界兵器〝千曳の岩か!」
あとがき
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