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第620話 田楽おでんと伊吹賈南、隠し部屋にて会見する

620


「さあ、鬼が出るか蛇が出るか。どっちであろうとも、妾ほどではないだろうがな!」


 昆布のように艶がない黒髪の少女、伊吹いぶき賈南かなんは、遊戯用迷宮〝U・S・Jウメダのすごいジャングル〟の地下三〇階、水中デッキ付近に隠されていた部屋へと踏み入った。

 賈南は知らぬ事だが、先行していた冒険者パーティ〝W・Aワイルドアドベンチャラーズの代表、出雲桃太いずもとうたが、竪琴の付喪神つくもがみである佐倉みずちと初めて出会った時、彼女が隠れていた場所である。

 

「ふむ、天井から吊られたランプが照らす部屋。中央には、向かい合わせのソファとテーブルが設置されて、壁際には饗応用の小型ワインセラーに、やたら広い本棚と、シンプルな掛け時計があるのか。一見ただの応接室に見えるが、更に底があると見た。妾の推理が正しければ、必ずやオタカラが……田楽おでんの本体があるはずなのだ」


 賈南は早速、隠し部屋の探索にとりかかった。

 目立ったヒントは何もなかったが、桃太達が四人がかりで乗り越えた地下三〇階分のギミックを、単独で乗り越えた〝斥候スカウト〟の技量は伊達ではない。


「この手の仕掛けの場合、よくあるのが隠しスイッチだ。宝探しみたいでワクワクするぞ」


 賈南はソファの下、ワインセラーの横、吊りランプの陰などに隠されたボタンをパチパチと押し……。


「ほう。本棚の並び順番がおかしいから、直しておくか」


 続いて、厚さや高さなどデタラメな順番で並んでいた百科事典を振られた番号通りに整理する。

 おそらくは重さが鍵となっていたのだろう。どこかでギイと歯車が動く音がした。


「あとは特定の音楽を演奏するとか、料理を備えるなども考えられるが、この部屋にキッチンや楽器がない以上、そこまで手間暇をかけるとも考え辛い。……あの時計、若干ズレているような気がするな」


 賈南が掛け時計を手に取り、時計の長針と短針をぐるぐると動かすと、カチリと何かがハマる音がして、壁を覆う本棚がゴゴゴと音を立てて動き出し、隠し扉が現れた。


「ビンゴ!」


 そうして賈南は、遂にお目当ての宝を見つけ出した。


「これが神槍ガングニール。いや、田楽おでんの正体か」


 隠し部屋の更に奥、寝室めいたシークレットルームには、二〇〇〇年の長きにわたる戦傷でボロボロになってなお、強烈な気配を発する槍が立てかけられていたからだ。


「戦を重ねて傷ついてなお、なんたる威風か。我が父、伊吹弥三郎いぶきやさぶろうが攻め落とせなかったのも頷ける」


 おでんが感慨深く呟くと――。


「ふん、毒蛇が紛れ込んだかと思えば、あの伊吹弥三郎いぶきやさぶろうの娘か」


 壊れかけた槍が全身をびりびりと震わせ、口もないのに言葉を発した。


「アハハ、妾の父を知っているのか?」


 賈南は赤い瞳を蛇のように細めて、槍に向かって近づいてゆく。


「初めて交戦したとき、我が物となれと情熱的に誘われたのじゃ」


 このおでんの反応には、賈南も面食らった。

 彼女の父、伊吹弥三郎は八岐大蛇の首、その化身だけあって絵に描いたような豪放磊落ごうほうらいらくな男だった。

 酒を浴びるように飲み、部屋が黒くなるほどにタバコをふかし、好みの女と見れば口説かずにはいられない古いタイプの豪傑ごうけつだった。

 しかし、槍はもちろん人型に化けてさえ、スレンダーな体格の田楽おでんは、ボンキュボンッな恵体がストライクゾーンな父の好みからは大きく外れている。


「田楽おでん。あの不良オヤジは確かに貴女を欲したのだろうが、そりゃあ有能な副官とか、作戦参謀としてであって、女としては見ておらんよ。ちょーっと色ボケが過ぎるんじゃないか、おバアサン?」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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>あとは特定の音楽を演奏するとか、料理を備えるなども考えられるが 音楽組(ワクテカ) 料理組(そわそわ) 芸術組「特定の芸術作品かもしれないわよ?」 おでん&昆布「「お前ら全員帰れ!」」
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