表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
620/793

第614話 背中を押す声

614


「これが俺と紗雨ちゃんの切り札、〝生太刀いくたち草薙くさなぎ砲車雲もとくも〟だあ!」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたと、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女、建速紗雨たけはやさあめは左右の手を重ねて暴風の剣を形作る。


「桃太おにーさんが、神鳴鬼かみなりのおにケラウノスをぶっ壊した必殺技サメ。閉じた夜なんて、サメ映画のようにぱっくり食べちゃうサメエ!」


 桃太はかつて、八大勇者の一人にして、八岐大蛇の首に堕落した男、四鳴啓介しめいけいすけが日本政府から奪い、電気異常を引き起こした巨大な発電鬼をこの〝生太刀いくたち草薙くさなぎ砲車雲もとくも〟で切り裂いた経験がある。

 紗雨の言う通り、この技であれば、二人を縛る結界〝死と再生の夜祭り(ヴァルプルギスナハト)〟だって破壊できるかも知れない。


「させん、させんぞ」


 一方、鴉の濡れ羽が如き黒髪が美しい、二千年を生きる付喪神つくもがみ、田楽おでんは、相棒である佐倉みずちが変じた竪琴を奏でながら、光り輝くルーン文字を綴り、ブラックホールめいた暗黒球体で桃太と紗雨を包み込んだ。

 重力と黒い水が竜巻の剣を侵食し、自らが支配するモノクロの世界からの脱出は許さないと締め付ける。しかし。


「桃太お兄様。頑張って!」


 戦場となった無人島の端、戦闘能力を失って避難した、山吹色の髪を三つ編みに結った小柄な少女、呉陸羽くれりうが、叔父の怪我を治療しながら喉の限りに励ましの声をあげ――。


「ここは勝利の場面だぜ、ヒーロー」


 姪の手当てを受けるベテラン冒険者、呉栄彦くれはるひこが、おでんとの戦いで負った怪我と酔拳の反動に苦しみつつも、親指をあげて応援する――。


「うおおおおっ」

「サメメメメっ!」

 

 桃太と紗雨のかざす竜巻の剣は、陸羽と栄彦の応援に応えるように、しがらみを振り払った。


「なんとっ!?」

「そっか。貴方達は打ちのめされても、それでも前に進んでゆくのね」


 おでんとみずちは気づく。桃太達にエールを送るのは二人だけではない。


「なんだかよくわからんが勝てええ」

「紗雨ちゃん、あともうちょっとよ」


 昼時ゆえに、遊戯用迷宮〝U・S・Jウメダのすごいジャングルの探索から食事を求めて戻り、ウメダの里で戦いを見守る、冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズ〟の団員達も、それぞれの言葉で桃太と紗雨を鼓舞した。


「執事さん、勝ちましょう!」


 かつての家庭教師への依存にくぎりをつけ、焔学園二年一組の友人達とパーティを組んで地下二五階まで探索を進め、水の岩場で濡れて乾かしに戻った、赤い髪を二つのお団子状に束ねた少女。

 六辻詠ろくつじうたは、ロケットのように突き出した胸をばるんばるん揺らしながら、手製の拡声器を用いて叫び――。


「本当に大きく、強くなりましたね」


 単独探索ながら、地下二六階の地下植物園にまで至った〝賢者〟こと、担任教師の矢上遥花やがみはるかは、休憩室に設置された中継端末から祈るように見守り――。


「出雲は強いね」

「私たちもいつか追いつく。だから、カッコよくキメて」


 連携の巧みさでスケベなゴブリン人形を蹴散らし、隠し扉だらけの迷路で構成された地下二七階を突破した、サイドポニーの目立つ少女、柳心紺やなぎここんと、瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜そひらとあもまたスフィンクス人形の手前にある休憩所で、応援する――。


「時代は変わる。お前達なら変えられるとも」


 そして、地下二九階。

 冷凍庫のように凍りついた氷結フロア中央にある避難小屋では、八岐大蛇の首の一人であり、昆布のように艶のない黒髪の少女に化けた伊吹賈南が、地上に残した式神からの通信映像を見つつ、口角をあげてニヤリと笑った――。


「出雲桃太、建速紗雨。お前たちこそが、わらわの選んだ宿敵なのじゃから」


 桃太が宿す〝かんなぎの力〟――絆が生み出す無限のエネルギーが、竜巻の剣を拡大し、閉ざされた世界が強いる運命を覆そうと、天を貫く塔の如き大きさまで伸ばした。


「うおおおっ、いっけえええっ!」 

「桃太おにーさんと紗雨のど根性を見るサメエエ」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
元〇玉? サ〇ン!サタ〇!(空に手をかざしながら)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ