第60話 塗り変わる勢力図
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桃太らレジスタンスが〝ダンス・リバース作戦〟を成功させ、異界迷宮カクリヨ内部の〝C・H・O〟拠点を次々に無血開城させた影響は、当然ながら地上にも波及した。
「補給部隊が政府に投降しただって?」
「出雲桃太って劣等生が結成した、レジスタンスに加わったとも聞くぞ」
「どっちでもいいわよ。私達に武器も燃料も無しで戦えっていうの?」
「何もかも三縞家のせいだ。悪いのは俺達じゃない!」
地上には〝C・H・O〟のベテラン冒険者達がまだ残っている。
彼らは〝鬼の力〟に強く汚染されていたため、街中に溢れるダンスを見たり音楽を聞いたりしても、動じることはなかった。
しかし、逆に言えば〝鬼の力〟に強く呪われた鬼憑き達に――組織への忠誠心などまるでなく、戦況が不利と見るや一斉に逃亡を図った。
「奥羽以遠より、議員の皆様方に御報告いたします。テロリスト団体〝C・H・O〟は続々と離脱者が相次いでいます。また異界迷宮カクリヨ内部でも、出雲桃太君が率いるレジスタンスに投降者が続出しているとのことです。巻き返すなら今です!」
日本政府は、以遠からもたらされた情報を元に全面攻勢を決断。自衛隊を投入するまでもなく、機動隊で団員の大半を拘束した。
こうして旗色が鮮明となるや、日和見を決め込んでいた八大勇者パーティも、手のひらを返すように政府への協力を表明する。
「勇者パーティ〝S・E・I〟の代表にして、一葉家の血を継ぐ、四鳴景介が宣言する。
〝C・H・O〟の首魁たる三縞凛音は、悪逆なる鷹舟俊忠に惑わされ、日本国を血に染めた悪鬼である。善良なる冒険者諸君、我らと共に罪深き彼女達に誅伐を加えよう!」
最初に口火を切ったのは、獅子央家に連なる八代勇者パーティ中でも名門と名高い、四鳴家だった。
代表啓介は、母方の縁戚である一葉家と共に三縞家を奇襲した。残念ながら、彼らは返り討ちにあってしまったものの……。
乂の弟が跡を継いだ五馬家と、武勇で名高い六辻家が、一葉家と四鳴家救出を大義名分に参戦する。
更には、三縞家と事実上の同盟を結んでいた七罪家も、手のひらを返すように 〝C・H・O〟の背後から攻撃を加えたことで、地上の勢力図は完全に塗り変わった。
およそ一ヶ月の交戦を経て、〝C・H・O〟の地上拠点は、すべて陥落。クーデターは失敗におわり、軍勢も異界迷宮カクリヨ内部に残るのみとなった。
そして、西暦二〇X一年、一二月二三日。クリスマス前夜。
桃太達レジスタンスはこれまで冒険者達から集めた情報から、凛音の居場所を知る指揮官を見つけだした。
「こちらは発掘兵器〝千曳の岩〟専属の補給砦を預かる、幸保商二だ。この砦は降伏する。私の首と引き換えに、どうか部下達の安全を保障して欲しい」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が尋ねると、砦の若き指揮官はまるで切腹でもするかのように白装束を着て、脇差しを側に置いて出迎えた。
「自殺なんてやめてください。生きて裁判を受けることが償いでしょう。幸保さんは三縞代表の居場所を知っていると複数の方から聞きました。教えてはくれませんか? 俺たちは戦いを止めたいんです」
桃太が呼びかけると、砦の指揮官は感じ入ったかのように四つん這いになり、額を床に擦り付けた。
「貴君が、レジスタンスを作り上げた出雲桃太殿か。〝鬼の力〟に惑うことのない理性、聞きしに勝る。追放されたはずなのに、何もかもを変えてしまったのも納得だ。そんな貴君だからこそ頼みたい。凛音様は、第四階層の〝雲竜の丘〟にいる。彼女は鷹舟副代表や黒山犬斗に操られているだけなんだ。どうか、代表を救ってほしい」
あとがき
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