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第612話 逆転の一手

612


「改めて命令を下す。

 ひとつ、〝北欧神ほくおうしん〟の攻撃は必中となる。

 ふたつ、〝北欧神ほくおうしん〟の攻撃は百倍に数を増す!」


 鴉の濡れ羽が如き黒髪が美しい、漆黒のドレスをまとう付喪神つくもがみ、田楽おでんは結界に閉ざされたモノクロの世界に命令をくだし、彼女がルーン文字を綴って生み出す剣や槍を百倍に増やした。


「そうね。弱体化デバフが使えなくとも、強化バフが際限なく使える以上、この結界〝死と再生の夜祭(ヴァルプルギスナハト)〟がある限り、絶対優位は変わらない。百倍はさすがに苦しいけれど、私が支えるから燃料切れで引き分け……なんて展開はないわよ」


 おでんの腕に抱かれた竪琴となったもう一人の付喪神、佐倉みずちも一心同体の変身ゆえに引きずられるように戦闘へ移行。


「おでんさん、みずちさん。俺が異世界クマ国から与えられた〝かんなぎの力〟は〝縁の力〟。すなわち、自身と仲間の強化だ。俺と紗雨ちゃんがいて、応援してくれる仲間もいる。最初から引き分け狙いなんてない。勝利はいただいてゆく!」

「サメっサメエ」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたは、サメのきぐるみをかぶった銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女、建速紗雨たけはやさあめと共に迎えうった。


「大口を叩くがっ、我が絶対必中の飽和攻撃をどうかわす!?」

「必ず当たるなら、すべて受け止めればいい。百倍だろうと諦める理由にはならない」


 桃太に宿る〝巫の力〟が増しているのか、彼の瞳が更に青く輝き、おでんが振るう百本の剣を、両の拳でさばいてみせた。


「おでんの攻撃に合わせて死角を狙っていきたいけれど、そう簡単にはいかないようね」

「もちろんサメエ。もう一度言っちゃうサメエ。桃太おにーさんと紗雨はベストパートなんだサメエっ」


 みずちは、結界内の四方八方から水のロープや鎖を放って捕縛しようとするものの、紗雨が細い腕に巻きつけた水のドリルで切り払い、手裏剣を投げて迎撃する。


「見事じゃ。ならば、百の攻撃で届かないならば、……一千の武器を受けるがいい」

「それはどうかな。これだけ密集した標的がいるなら、反射だって楽勝だ!」


 桃太は左手で紗雨を抱き寄せると、黒い瞳を青く輝かせながら右手を掲げ、天から降り注ぐ文字の武器へ触れて、弾き返した。


「カムロさんの修行を受けていた時は、空飛ぶはたきで散々打ち据えられたんだ。百も千も関係ない。たかが数が増えたところで怖いものか!」

「あの修行は痛いんだサメエ。ジイチャンはスパルタ過ぎでひどいんだサメーっ」


 紗雨の力添えを受けながら、桃太が反射したおでんの武器は爆発し、衝撃波となって空中へと巻き上がる。


「そこだ、出雲っ。あの反射技を使ったということは、ひよっとしてアレをやる気か?」

「紗雨姫、頑張って。なんだ、いったい何が起こるんだ?」


 ウメダの里で映像中継を見守る中。


「紗雨ちゃん、呼吸を合わせるよ」

「合体変身だけがコンビ技じゃないんだサメエ」


 桃太と紗雨反射を利用して、降り注ぐおでんの武器を爆破し、それが更なる爆発を招くことで連鎖させ、モノクロの世界に存在するなにもかもを衝撃の大渦に飲み込んでゆく。

 こうなってしまえば、おでんが操る千を超える武器も、大渦に閉じ込められた、ハンバーグステーキの具材に等しかった。


「さあ、反撃だっ。我流・螺子回転刃(カシナート)

あとがき

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