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第610話 窮鼠、猫を噛む?

610


「こ、これが〝死と再生の夜祭り(ヴァルプルギスナハト)〟。自分の体なのに、指一本思い通りにならないなんて、デタラメな」

「こ、こんなのインチキサメエ。サメ映画だって予算とか役者さんとの折り合いで、監督が自由にできるわけじゃないんだサメエ」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたと、彼がかぶるサメを模した仮面となった少女、建速紗雨たけはやさあめは、モノクロの世界に閉じ込められて、絶体絶命の窮地に陥っていた。


「わしが過去に八岐大蛇の首をうち、万を超える竜の軍勢を打ち破った切り札よ。認めよう、其方達は試験に合格した」

「わたしは、貴方達がアテルイの遺産を託すにたるのか知りたかっただけなのだけれど、長い友人の頼みだから、今回だけは勝利をもらうわ」


 桃太達は、鴉の濡れ羽が如き黒髪が美しい、漆黒のドレスを身にまとう付喪神、田楽おでんが作り上げた檻のなかで身動きがとれず……。

 竪琴に変化した付喪神の少女、佐倉みずちが流し入れる睡眠ガスがゆっくりと身体に染み込んでゆく。


(ここまできて、勝てないのか)


 桃太は目の前が暗くなり、灰色の諦めが心を蝕んでゆく。

 ここに勝負は決した。

 異世界クマ国に地球と異なる法則があったとしても、いくら〝鬼の力〟が強大だったとしても、自分の思い通りに何もかも支配する結界だなんて、あまりに無法だった。


「おいこら二人とも、何を棒立ちになっている」

「出雲サン、勝負はここからです」

「紗雨ちゃん、ファイトおお!」


 しかし、その時、戦場となった無人島から海を隔てたウメダの里から声が届いた。


「桃太おにーさん。皆の声援が聞こえる? 諦めちゃ駄目サメエ。もしおでんオネーチャンが無敵なら、カムロのジイチャンと引き分けているはずがないんだサメエ」

「うん。みんなの声が聞こえるよ。紗雨ちゃん。ありがとうっ」


 桃太は仲間の声援と紗雨の励ましを聞いて、ウメダの里を訪れた初日、師匠であるカムロと、おでんが激突した光景を脳裏に描いていた。


(あの時、カムロさんはおでんさんが〝死と再生の夜祭り(ヴァルプルギスナハト)〟を発動しようとした瞬間、問答無用で叩き壊そうとしていた。あれがきっと最適解なのだと、俺は知っている)


 ならば、自分たちのやり方で模倣……否、上回ればいい。


「紗雨ちゃん、俺たち二人で勝つよ」

「桃太おにーさんを信じてるサメエ」


 桃太と紗雨は呼吸をあわせて、逆転の一手を打つ。


「「変身解除リムーブマスク」」

「「なんだって!?」」


 それは、合体分離することで〝行者ぎょうじゃ〟の〝役名〟から降りることだった。


「わざわざ弱くなるとか正気か?」

「檻に囚われている今、分離する意味があるのかしら」


 おでんとみずちが疑問を呈するが……。


「あるとも! 我流・長巻!」


 桃太は分離した直後に、右手に巻きつけた衝撃刃で檻をずんばらりと切り払った。


「サメっ、サメエエっ。眠りの霧は追い出しちゃうサメエ」


 さらに空飛ぶ銀色のサメに変身した紗雨が水竜巻を起こして、黒い霧を消し飛ばす。


「しまった、そういうことか」

「おでん、追い詰めすぎよ」


 冷や汗をかくおでんと彼女を諌めるみずちに対し、桃太は堂々と胸を張った。


「おでんさん、貴方の奥義。〝死と再生の夜祭り(ヴァルプルギスナハト)〟は、ルーン文字にて〝鬼の力〟に干渉し、一定範囲内の世界を改変するのだろう? だったら、命令の起点である〝行者〟から逃れるまでだ」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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昆布「これで紗雨と桃太は分かれたわけだ。ならば妾が桃太をもらっていっても何も問題ないな」
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