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第609話 田楽おでんの切り札

609


 西暦二〇X二年八月三一日昼。

 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたと、彼がかぶるサメを模した仮面となった少女、建速紗雨たけはやさあめのチーム。

 鴉の濡れ羽が如き黒髪が美しい、漆黒のドレスをまとう付喪神つくもがみ、田楽おでんと、彼女が担う竪琴となった佐倉みずちのチーム。

 地球と異世界クマ国の行末を占う、二心一体の二人が激突する変則的なタッグマッチも、いよいよ決着を迎えようとしていた。しかし。


「桃太君、紗雨ちゃん。其方達の強さを認めよう、我が友アテルイの遺産はもってゆけ。それでもこの場で勝つのはわしとみずちじゃ。最後の切り札を使う。〝死と再生の夜祭り(ヴァルプルギスナハト)〟!」


 おでんが空に向かって手をかざすや、緑の木々と青い空、碧い海と白い砂浜からなる無人島に、黒板を引っ掻いたような不快な音が響き、ガラスを殴り割るがごとき白と黒のひび割れがはしり……。

 直後、世界は一変し、色のないモノクロの景色に変わっていた。


「なんだ、いったい何が起きたというんだ? この現象は時空結界か?」

「似ているけど、違うサメエ。操っていた水が消えて、いつの間にか周りに白く光る文字のおりが作られているサメエ」


 桃太と紗雨が驚いたのも無理はない。二人の必殺技が直撃し、おでんとみずちはノックアウト寸前だったはずなのだ。

 にも関わらず、あたかも一瞬で世界が変わったかのごとく勝敗が逆転し、囚われの窮地に追いやられていた。


「時空結界に似ているのはその通りよ。

 北欧神話とは、世界が死と再生を繰り返して、輪廻りんねする物語。神も人も巨人も背負った運命のままに舞台に登って踊り、退場を繰り返す。

 我が奥義はその世界構造になぞらえて〝鬼の力〟へ干渉し、一定範囲内の運命を掌握するのじゃ」


 おでんの解説はなんとも抽象的なもので、桃太と紗雨は首をかしげるが……。


「ええっと、つまりどういうことなんです?」

「おでんオネーチャン、サメ映画にたとえて欲しいんだサメエ」

「つまり、わしが監督、わしが好きなように設定を変えて映画をとる。OK?」

「「OKじゃない(サメエ)!!」」


 よくよく聞いてみれば、とんでもなく暴力的な術だった。


「ひとつ、〝北欧神ほくおうしん〟は〝行者ぎょうじゃ〟の攻撃を無効化する。

 ふたつ、〝北欧神〟は〝行者〟の防御を無視する。

 みっつ、〝北欧神〟は〝行者〟を結界範囲内から出ることを禁ずる。

 これが、因果律すら支配するわしの切り札じゃ!」


 おでんは新月の夜がごとくに黒いドレス包まれた薄い胸を張って、声高らかに命じた。


「なにくそっ、この程度の檻は衝撃刃で切り開く! あれ?」


 桃太は右腕に衝撃刃を巻き付けようとするも、まるで手応えがなく……。


「桃太おにーさん、紗雨に任せるサメ。あれ、水もつかえないサメ」


 彼がかぶる仮面となった紗雨が水術を試みるも不発に終わった。


「おでん。試験が終わったのなら、幕を引きましょう。天の詔琴のりごとよ、彼らを安らぎに導いて」


 さらに、おでんが奏でる竪琴となった付喪神、佐倉みずちが、睡眠誘導らしき黒い霧で檻の中を満たし始める。


「うむ。念には念を入れるとしよう。よっつ、〝北欧神〟は〝行者〟の行動を許さない」


 桃太と紗雨はなんとか抗おうとしたものの、今度は手足すらまともに動かなくなった。


「自分の体なのに、指一本思い通りにならないなんて、デタラメな」

「こ、こんなのインチキサメエ」

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>「つまり、わしが監督、わしが好きなように設定を変えて映画をとる。OK?」 カムロ「じゃぁ、僕はパトロンだね。監督の我儘を禁止する」
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