第608話 晴天の霹靂
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「おでん、油断しないで。桃太君と紗雨ちゃんの呼吸は一致しているのに、わたしと貴女はさっきから連携がガタガタよ。彼らのコントロールが、わたし達を上回ってるいるの!」
竪琴に姿を変えた付喪神の少女、佐倉みずちは、自らを抱くパートナー、田楽おでんを守ろうと弦を弾き、術を消滅させるシャボン玉に似た泡で迎撃を試みた。
「みずちさん。それの技は何度も見たから、対処法だってわかる」
「打ち消すだけの効果だから、飽和攻撃に弱いんだサメエ!」
しかし、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と彼のかぶるサメの仮面となった少女、建速紗雨は動じることなく、銀色に輝く水の竜巻で相殺の泡を押し流す。
「こうなれば、槍でぶっとばす!」
おでんはイノシシのように吠えたけるものの、合体変身の使い手としては、致命的な失策となる。
「冷静なみずちさんと、興奮したおでんさん。二人の呼吸の差が合体変身を弱めている。今こそ、俺と紗雨ちゃんの勝機だ」
桃太は自らのドリルと、紗雨が操る銀色の水竜巻で、滝の如き巨大な水槍をバラバラに粉砕した。
「「必殺、〝銀鮫竜巻落とし〟!」」
そして、二人は〝北欧神オーディン〟の役名を担う二心一体の付喪神を背負い投げ、竜巻に巻き込んで空中にうちあげた。
「「出雲のやつ、あの大槍をぶっ壊しやがった!」」
「「これが紗雨姫の力、カムロ様にも並ぶ鮮やかな戦いぶり!」」
中継されたウメダの里では、桃太の仲間達とおでんが治める民人達が、いよいよ決着かと熱狂する。
「〝豹口鬼フラウロス 〟となった黒山犬斗を倒した俺と紗雨ちゃんの必殺技だ。おでんさん、少しは冷静になれましたか?」
「むふふーっ、驚いたサメエ?」
桃太と紗雨の攻撃が直撃し、浄化の水柱に包まれたことで、おでんも思い直したのだろうか。
「そうじゃな。氷神アマツミカボシなんぞと呼ばれたあやつは、まっこと手のかかる馬鹿息子じゃった。それでもわしを親として愛してくれたのじゃろう」
おでんは銀色の水柱に胴上げされる、絶体絶命の窮地にもかからわらず、迷いの消えた晴れ晴れとした顔で空を見上げた。
「もはや、あの頃に戻ることは叶わぬ。いまさらになって気がついたが、わしは腹の底で、カムロや其方達に対抗心を燃やしていたのかもしれん。あやつは、あれでちゃんと子育てをやりとげたからな」
「え、カムロジイチャンに、子供はいなかったはずサメエ、まさか隠し子!?」
「違うよ。紗雨ちゃん」
桃太は師匠のカムロに変な形で甘える紗雨と、相棒の五馬乂も改善すべきではと思ったものの、言葉をえらぶ情けがあった。
「カムロさんが育てた子供って、紗雨ちゃんと乂のことだよ」
「そうじゃ。あの頑固ジジイは、直接の子孫こそ残さぬよう自重したようだが、引き取った紗雨ちゃんや乂君をいい子に育てたし、桃太君のような良き弟子にも恵まれた」
二千年の時を生きた付喪神の声は、疲れからかわずかに震えて……。
「実際、わしから見てもカムロはよくやっている。八岐大蛇の支配からクマ国全土を取り戻し、病みっぱなしの割には悪堕ちもせずに、半世紀以上の安定した治世を実現した。じゃがそれ以上に……、良好な親子関係、師弟関係を築いたことがねたましい。だからわしは、其方達に勝ちたいのじゃろう」
されど、黒衣をまとった細い身体は尽きることのない闘志にみちていた。
「桃太君、紗雨ちゃん。其方達の強さを認めよう、我が友アテルイの遺産はもってゆけ。それでもこの場で勝つのはわしとみずちじゃ。最後の切り札を使う。〝死と再生の夜祭り〟!」
あとがき
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