第59話 血を流さぬ戦い
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桃太達の、踊って敵を味方に変える〝ダンス・リバーシ作戦〟は大成功だった。
しかしながら、彼らの作戦がここまでスムーズに進んだのは、当然ながら他にも事情がある。
まず第一の理由は、元勇者パーティ〝C・H・O〟の鷹舟俊忠副代表が、戦闘に長けたベテラン冒険者、いわゆる一軍メンバーの大半を日本政府へのクーデターに投入した上に、最重要目的であった獅子央賈南暗殺に失敗したことだ。
「カクリヨ内部に居るのは、素人に毛の生えた団員だけだ。これで補給線を維持しろだなんて、我々を肉盾とでも思っているのか?」
鷹舟が極端な人員配置を強行した結果、兵站を維持する異界迷宮カクリヨ内部には、研修生を含む〝鬼の力〟が弱い二軍メンバーばかりが残っていた。
「おい、下の階層から届いた凛音様の命令書だが、印鑑も筆跡も違うぞ。見るからに偽造だが、嘘の命令書が多すぎて、どの命令が正しいのかさっぱりわからん」
第二の理由は、幹部の黒山犬斗が、三縞凛音代表の命令に背いてクマ国を侵略し、敗れて貴重な戦力を失った上に、失態を揉み潰そうと偽りの命令書を乱発したことだ。
本来であれば初級冒険者を統率する中級冒険者が、デタラメな命令に忙殺された結果、〝C・H・O〟は、組織として機能不全に陥ってしまった。
「いえーい、皆で踊ろう」
「レッツダンス!」
「サメッサメエ」
桃太達は、そんな閉塞したキャンプに、手作りの鈴や笛や太鼓で音楽を奏でながら、ダンスを踊りに行ったのだ。
ストレス過多に苦しむ冒険者達は、娯楽を求めて次々に輪の中に加わった。
「踊れや踊れ!」
「ひゃっほい!」
〝C・H・O〟の二軍メンバー達は、比較的〝鬼の力〟の汚染が浅かったこともあり、リズムに乗って手拍子を叩き、足で地を踏むことで、肉体を侵す〝赤い霧〟と〝黒い雪〟を排出し、黄金の光と白銀の光に包まれた。
「そうだ。俺は冒険者だ。異界迷宮カクリヨから、家族に宝を持ち帰るのが生業だ」
「なにが革命だよ、馬鹿馬鹿しい。最低の犯罪じゃないか、〝C・H・O〟にはもう付き合えん」
「あたしゃ、獅子央賈南は嫌いだが、黒山のような外道が成り代わる未来もゴメンだよ。ただ故郷を守りたかっただけなんだ」
桃太達と手を繋いで踊り明かした団員達は正気を取り戻し、その場で〝C・H・O〟への辞表を書いて、日本政府への投降や、桃太達と共に踊りを広めるレジスタンス活動へ加わることを約束してくれた。
「なあ、出雲桃太ってのは坊主のことかい?」
「こんな年端もいかない子だったんだねえ」
「はい」
桃太が進み出ると、一緒に踊った赤ら顔の中年男性や、キレキレのステップを踏んだ中年女性が、彼の背中を叩き、頬を撫でた。
「礼を言う。坊主のおかげで大事なものを失くさずに済んだ」
「悪い夢から覚めたみたいだよ」
「これからは、アンタ達に協力する。なんでも言っておくれ」
桃太は、照れながらも誇らしかった。
彼は今度こそ、血を流さない戦いを成功させたのだ。
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あとがき
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