第601話 二対二、共に背水の陣
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「リウちゃん、栄彦さん。遅れてすみせん。安全のために下がってください」
「あとは任せてほしいサメエ!」
ベテラン冒険者の呉栄彦と、彼の姪、呉陸羽が戦闘不能となった直後……。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、彼がかぶるサメに似た仮面に変身した建速紗雨は、閉じ込められていた水の囲いを突破して、無人島の浜辺へ到着。
「桃太お兄様、紗雨ちゃん。勝って、くださいね」
「すまん、酔拳……水意拳を使うためといえ飲みすぎた。大丈夫だ、キミ達ならやれる」
「はい、まかせてください」
「ガツンとやっちゃうサメエ。だから、まずは安全な場所まで逃げるんだサメエ」
桃太と、彼がかぶる仮面となった紗雨は、負傷した陸羽と栄彦を庇い、ひとまず島の裏側まで退避させた。
「よし、ここは悪戯をするのが姉というものかのう」
「おでん。いい加減にしないと、合体変身を解いて、コンビを解散するわよ」
「冗談じゃ、掃除して待っているとも」
おでんは、一瞬だけ戦闘体勢をとったものの、彼女が持つ竪琴に変身した付喪神、佐倉みずちに叱られて、栄彦が口からこぼした吐瀉物を砂浜へ埋めつつ大人しくしていた。
「おでんさん、みずちさん。お待たせしました。早速ですが、栄彦さんのアドバイスで完成させた新技を見せます。これぞ、我流・水刀!」
「桃太おにーさんの衝撃波と、紗雨の水を合わせるんだサメエ。さっき捕まってた囲いもぶっ壊した威力があるんだサメエ」
桃太は山伏めいた黒袴に包まれた足に、仮面となった紗雨の力を借りて、振動する水の刃をまとわせながら、おでんに向かって飛び蹴りを放つ。
遊戯用迷宮〝U・S・J〟の探索で研ぎ澄まされ、チームメイトの発想で昇華された一撃は、蹴りから舞い散る水飛沫だけで波をたち割り、砂浜を巻き上げるほどだった。
「見事見事! 桃太君も紗雨ちゃんも、たいしたものよ。八岐大蛇の首を討ってきただけのことはある。〝鬼の力〟が蔓延したからこそ安定した〝禁忌の力〟、合体変身をよくぞここまで使いこなしている。今の二人ならば、カムロにも劣るまい。しかし!」
されど、おでんがルーン文字を綴って作り上げた、半円状の大型盾に受け止められてしまう。
「あのジジイともかく、このお姉ちゃんを相手どるには、まだまだ年季が足りん。大技には隙が生まれると知れ!」
桃太はおでんの喝破に対し、思わずツッコミを抱いてしまう。
「あの、おでんさんの方が年季があるし、カムロさんより年上ですよね。それなのに、師匠をジジイと呼ぶのはおかしいんじゃないかなーって」
「桃太おにーさん、そこは見ないふりをするのが情けサメエ。おでんオネーチャンは、怒らせたら怖いんだサメエ!」
「二人とも、なにか言ったかの?」
おでんはさらに盾の一部を変化させてハリネズミのような砲塔をつくりあげ、ニードル状の弾丸を発射して反撃する。
「いいえ、なんでもないです。あぶなっ!」
桃太は危うく禁句を口にしかけたことを後悔しつつも、足に巻き付けていた衝撃波と水を解き、反動を生かして砂浜から森の方角へぶっとび、回避に成功した。
「ひえええっ、やりたい放題なんだサメエ」
紗雨がサメのお面を歪め、戦慄したのももっともだろう。
おでんがやつあたりで放った矢雨は、二人をかすめ、背後で青々としげる木々をバラバラに引き裂くほどに強烈だった。
しかし、桃太の闘志は揺るがない。
「おでんさん。隙というなら貴女もだ。師匠、カムロさんとの戦いを見て、そして実際に戦ってわかった。貴方は格闘も鬼術もデタラメに強いが、文字を媒介にする以上、発動までに僅かな空白が生まれる。おそらくは古い世界の戦闘手段を無茶してクマ国世界にコンバートしているからだ。そこに、俺たちの勝機がある!」
あとがき
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