第599話 付喪神達の反撃
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「舞台降臨 役名布告――〝北欧神オーディン〟っ。推して参る!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、彼がかぶるサメに似た仮面となった少女、建速紗雨は、鴉の濡れ羽が如き黒髪が美しい、赤いサマースーツを着た麗女、田楽おでんの役名宣言を聞いて喫驚した。
「お、オーディン? 聞いたことのない役名だぞ。いったい何をする気なんだ?」
「桃太おにーさん。みずちさんの姿が変わる、そういえば付喪神だって言っていたサメエ!?」
桃太と紗雨が見守る中、さっきまで二人と交戦中だったセーラー服を着た水色髪の少女は、正体を表すかのように姿を人間から杖に、杖から弦を張った竪琴へと変化した。
「同じく、舞台降臨 役名布告―― 〝北欧神オーディン〟。この大仰な二心一体のコンビ名、ガンバンテインと呼ばれる以上に嫌いなのよね。ねえ、おでん、もうちょっとシンプルにしない? この前、動画で見た地球の漫才コンテストで、名乗ってみたい面白い名前があったのよ」
「えーい、だまらっしゃい!」
おでんが付喪神としての正体をさらしたみずちを手にすると、突如として赤い閃光に包まれ……。
おでんもまた、眼帯をつけた翁の仮面をかぶり、先ほどまで着ていた真っ赤なサマースーツから一転、新月の夜を連想させる漆黒のドレスを身につける姿へと変身した。
「そうか、ガンバンテインとは、北欧神話の主神オーディンが所持する魔杖の名前だ。神槍ガングニールが有名すぎて失念していた。おでんさんがかぶる仮面と、混ざりあった〝鬼の力〟を見るに、あれはきっと桃太君と紗雨ちゃんと同じ合体変身だ」
先ほどまでおでんと交戦していたベテラン冒険者の呉栄彦は、自らの推理か、あるいは所持する赤い山椒魚のような虫が描かれた金属製水筒〝鬼神具・酒虫水瓶〟から聞いたのか、状況を即座に把握したようだ。
「俺達と同じ、合体変身だって!?」
「おでんオネーサンとみずちさんもできたんだサメエエ!?」
桃太と紗雨は衝撃のあまり腰をぬかさんばかりに驚き。
「「マジかよ。出雲達以外にもできるのかよ?」」
時は昼過ぎ。迷宮探索からウメダの里へ昼食に戻っていたクラスメイト達、冒険者パーティW・A〟の団員達は、中継映像を見守りながら絶叫した。
「「おでん様とみずち様が変身したぞ」」
「「な、な、なんだってええええ」」
そして、驚いているのは地球の冒険者だけに留まらない。
ウメダの里人達も想像もしなかった光景らしく目を奪われていた。
「おじさまの言うとおりなら、あの神鳴鬼ケラウノスよりも強いの? でも、二人が一人に減ったならむしろチャンス! 〝停止の視線光〟」
されど、山吹色の髪を三つ編みに結った少女、呉陸羽は、再び目から強制停止のビームを、変身が終わったばかりのおでんに放つ。
「みずち、〝融合〟して……ごほん、〝北欧神オーディン〟に合体変身して早速じゃが、みかがみの盾を作るぞ」
「りょーかい!」
しかし、おでんがみずちの弦をかきならすや、梵字のような文字と水がより合わせて鏡を作り上げ、陸羽のビームを反射してしまう。
「え、そんなっ」
最大の切り札を跳ね返された陸羽は、なすすべもなく硬直し、無防備な姿をさらしてしまう。
おでんは、その隙を見逃すほど優しくはなかった。
「あとで弁償するゆえ、容赦せい。爆破!」
「怪我はさせないように、注意してっ」
「きゃああああっ」
おでんは目にも止まらぬ速さで竪琴となったみずちをぶん回し、陸羽がまとう重鎧の背部から突き出た、オルガンパイプに似た排気口をすべて叩き折り、蒸気エンジンを引きちぎった。
「まだです。たとえエンジンの力を借りなくても、うちは戦える!」
あとがき
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