第596話 無人島の激戦
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「おでんお姉さんが術を使う瞬間を待っていました。うちも切り札を使いますっ! 〝停止の視線光〟」
「なにっ!?」
山吹色の髪を三つ編みに結い、白い蒸気鎧を身につけた少女、呉陸羽は、鴉の濡れ羽が如き黒髪が美しい、赤いサマースーツを着た麗女、田楽おでんに対して目からビームのような光を放ち、直撃させた。
「ホバー走行も、光球も、おじさまの水弾も、すべてはこの一撃に繋ぐためっ」
陸羽は、元八大勇者パーティのひとつ、テロリスト団体〝S・E・I 〟の首魁、四鳴啓介によって蛇髪鬼ゴルゴーンへ無理矢理に変貌させられた過去があった。
彼女が思慕する少年、出雲桃太に救われたあと、石化硬直をもたらす視線という〝鬼の力〟は大幅に弱体化したものの、今もまだ強制停止の光として宿っている。
「いまだ、リウ!」
後方から叔父であるベテラン冒険者、呉栄彦の激励が聞こえる。
彼の支援とアドバイスを得て、いくつもの策を重ねて命中させた切り札だが、稼げる時間は、わずかにコンマ一秒だろう。
けれど、目と目があう距離では、幕を引くのに十分過ぎる。
「桃太お兄様の夢を叶えるために、戦闘艦トツカはいただいてゆきます」
陸羽は馬の沓に似たU字型のナイフを、驚愕の表情を浮かべて硬直するおでんに突きつけて決着をはかった。
「!?」
されど刃が、おでんの首に届くかと思われた瞬間――。
赤いサマースーツの袖から梵字のような文字が溢れて、不可視の鎧を形作り、刃を弾き飛ばした。
「やはり、保険がかけられていましたかっ」
異世界クマ国の代表カムロと年一回の模擬戦をするだけあって、おでんは万が一の危機に備え、持ち主が前後不覚であったとしても自動で防衛できるよう、あらかじめ文字術を仕込んでいたのだ。
「み、見事じゃ、陸羽ちゃん。無礼をわびよう。わしの目が曇っていたとも。地球とクマ国の技術交流が生み出した道具だけが優れているのではない。其方もまた、十全に使いこなせるほどに強い。だから、ここからはお姉ちゃんとして全力で向き合おう」
おでんは白い指先で文字を綴り、バチンと鳴らす。
その瞬間、彼女がホバー移動する陸羽と併走するために蹴ってきた、磯辺の黒色や茶色い岩に刻まれた文字跡が白く輝いた。
「そんな、あれって跳躍していただけじゃないんですか!?」
陸羽は、おでんは移動と同時に〝鬼の力〟が宿る文字を戦場各地に刻み込んでいたと知り、背中に冷たい汗が広がった。
文字は連なり、剣、槍、棍棒、斧といった無数の武器へと姿を変えて、嵐のように襲ってきた。
「「いけない、陸羽ちゃん逃げろおおお」」
海を隔てたウメダの里では、中継映像を見守る冒険者パーティ、〝W・A〟の仲間達が悲鳴をあげ――。
「「おでん様は罠に誘われているように見せかけて、逆に罠に誘導していたのか。皆のお姉ちゃんは伊達じゃない!」」
異世界クマ国の住民達は勝利を確信する。
「リウ、交代だ。この水ロープにつかまれ!」
されど、文字の武器が激突する寸前。
無人島の森から粘着質な水のロープが伸びて陸羽をしげみへと脱出させたことで、辛くもしのぐことができた。
「リウ。よくぞ、おでんさんの備えを明かしてくれた。おでんお姉さんは一人だが、こっちは二人なんだ。その強みを活かす」
「わりました、おじさま!」
ここで一度は後衛に下がった陸羽の叔父、栄彦が割り入って改めて前方に出た。
「今こそ見せよう。呉家秘伝、奥義〝水意八閃〟!」
あとがき
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