第594話 白騎士が背負うもの
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「栄彦君。わしは酒神サケトケノカミの飲み友達でな。あやつの技を受け継いだその水瓶が、術の触媒に適した酒やノンアルコールドリンクを散布する機能があるということを知っておる。ゆえに、空中散布を利用した手品のタネも既に割れていると知るがいい」
ベテラン冒険者、呉栄彦が赤い山椒魚に似た虫の描かれた金属水筒から、術の基点となる水をばらまくも……。
鴉の濡れ羽がごとき黒髪が美しい麗女、田楽おでんは、自らを守る剣槍を構成する梵字のごとき文字を発火させ、熱風を生み出すことで乾かしてしまった。
「くっ。故事に曰く、敵を知り己を知れば百戦危うからず、だったか。手の内がバレているのは参るね」
栄彦は戦術が不発したとみるや戦場となった砂浜から後退して、身の丈よりも大きな岩の並ぶ磯辺へと後退して、熱風を避け――。
「だったらっ。おじさま、スイッチです」
そこに姪である呉陸羽が、三つ編みに結った山吹色の髪を弾ませながら駆け寄り、前衛と後衛を入れ替えた。
「そうだね。ここは、頼む」
「任せてください。舞台登場 役名宣言――〝白騎士〟」
陸羽が馬の沓に似たU字型の刃を掲げて、自らの役名を堂々と告げるや――。
彼女の小柄な体躯をつつむ、ゆったりとした学校指定ジャージがクリーム色のぴっちりとした戦闘服に入れ替わり、背中から翼のように広がる排気口が特徴的な、白い全身鎧が装着された。
「ほう。そのオルガンパイプに似た筒のついた蒸気機関には見覚えがある。カムロが見出し、今は奴の鎖国方針に反発して出奔した跳ねっかえり、オウモが創りあげた〝蒸気鎧〟を、地球側が真似した複製品か」
おでんは、陸羽に向かってからからと笑い――。
「本物ならいざ知らず、陸羽ちゃんが使っているものは、四鳴啓介なる盗人が模倣したハリボテときく。熱した飴細工のようにひしゃげなければ良いがの」
いきなり真顔になるや、赤いサマースーツの裾から伸びた白い足で大地を蹴り、あたかもジェット機のごとき速度で踏み込むや、手刀で切りつけた。
その一振りは居合抜きのごとき速さで、磯辺に立つ全長三メートルもの大岩を一刀両断するが――。
「おでんお姉さん。地球の技術も日進月歩で進化しています」
陸羽はわずかに口元を緩めると、鎧の籠手で真正面から受け止めてみせる。
雷鳴のような音が轟くものの、分厚い装甲は見事に受け止めて見せた。
「……ほう、硬いな。オウモが売り込みにきた試作品の装甲すらも、越えている」
「元は粗悪品でしたが、先だってメンテナンスした際に新調しました。今、うちの身を守ってくれているのは、異界迷宮カクリヨから得た資源を、地球とクマ国の技術交流で重ねた技術で鍛えた、まったく新しい装甲板です」
陸羽が胸を張ると、おでんは一瞬だけ悔しそうに顔色を歪めるも、やがて愉快そうにカラカラと笑った。
「なるほど、カムロが危惧するように異なる国、異なる世界が交わるからこそ起きる問題もあるが……。オウモが惚れ込んだように、だからこそ生まれる新しい技術もあるということか!?」
あとがき
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