第58話 踊れ! ダンス&リバーシ作戦
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西暦二〇X一年の一一月下旬。
異世界クマ国の軍勢が、地球のテロリスト団体〝C・H・O〟を押し返した頃――。
反旗を翻した研修生一行も、イナバの里付近にある転移門をくぐり、異界迷宮カクリヨの第五階層に突入していた。
「山を出たら、一面の岩と湖だった!」
額に十字傷を刻まれた小柄な少年、出雲桃太は、視界を埋め尽くす、茶色と青色のグラデーションが織りなす光景に浮かれ――。
「水着に着替えてレッツスイミング!」
素裸の上に革ジャンパーを羽織り、ドカンズボンを穿いた金髪少年、五馬乂もライダーブーツを脱ぎ捨てながら水辺に飛び出し――。
「湖は、サメ映画の宝庫サメエ!」
サメの着ぐるみを被った銀髪碧眼の少女、建速紗雨も腕をぐるぐる回しながら歓声をあげたが――。
「出雲君、乂さん、紗雨ちゃん。忘れないでくださいね。ここは第五階層〝妖精の湖畔〟。クマ国とは違って、危険な異界迷宮カクリヨの中ですよ」
付き添いの矢上遥花にたしなめられて、三人はしゅんと肩を落とした。
「そうだね。遊ぶのは事件を解決した後だ。まずは俺達の手で元勇者パーティ〝C・H・O〟のクーデターを終わらせよう」
「デストローイ! 異界兵器〝千曳の岩〟をぶっ壊して、寝ぼけた〝鬼勇者〟三縞凛音の目を覚まさせてやろうぜ」
桃太と乂が立てた戦略は、敵総大将を狙う短期決戦だった。
「でも、桃太おにーさんもガイも、凛音さんの居場所を知ってるサメ?」
「「わかりません」」
しかし、紗雨に不備を指摘されるや、盛り上がっていた二人は、塩をかけられたなめくじのようにしぼんでしまう。
なるほど、全貌の解明されていない異界迷宮でやみくもに人を探すのは、干し草の山に紛れた一本の縫い針を探すようなものだろう。
その後は、林魚旋斧ら研修生達と一緒に、「潜入捜査をしよう」「催眠術を覚えてみよう」「占いに賭けるのはどうか?」「ダウジングで兵器を見つけよう」「いっそ、こっくりさんに聞いてみる」などと、学生らしい荒唐無稽なアイデアが飛び交ったものの……。
「遠亜っちとも話したんだけどさ、今のアタシ達には凝った作戦は無理。だから、取り敢えず〝C・H・O〟のキャンプ地を見つけて押し込もう」
「心紺ちゃんの言うように、三縞代表の居場所を聞き出すには、まず味方を増やすのが早道です。〝C・H・O〟の拠点を制圧し、皆で踊って洗脳を解きましょう。私達はこれを白と黒を裏返すテーブルゲームに見立て、〝ダンス・リバーシ作戦〟と名付けました」
サイドポニーの〝黒鬼術士〟柳心紺と、ショートボブの〝白鬼術士〟祖平遠亜が参謀役をかって出て、荒削りながらも具体的なプランをまとめあげた。
「柳さん、祖平さん、よくできました、花丸をつけちゃいます。出雲君、〝ダンス・リバーシ作戦〟を試してみませんか? お姉さんはお姉さんなので、伴奏用の楽器だって作れちゃいます!」
冒険者育成学校の教師である矢上遥花が後押しをしたことから、桃太達は即座に実行。
「わかりました。皆、善は急げだ!」
「相棒、あそこのキャンプにお邪魔しようぜ」
桃太一行は、手近にある材料で作り上げた土鈴や、石笛、木の太鼓で調子ハズレの音楽を奏でながら、目についた冒険者キャンプで片端から踊りはじめた。
「サメッ、サメー。紗雨も踊るサメ、みんなでダンスサメエ」
「うおおおっ。おれ達のダンスを見ろおおおっ」
そして、手作り感たっぷりの〝ダンス・リバーシ作戦〟は覿面に効いた。
「か、可愛い。俺も一緒に踊ってみようっと、AAAAA!?」
「ヘタクソねえ、私が見本を見せてあげる。あ、AAAAA!?」
副代表の鷹舟俊忠と、幹部の黒山犬斗が自らの作戦に精鋭を動員した為、異界迷宮カクリヨに残る〝C・H・O〟の冒険者は、補給線を警備する新人や研修生が大半だった。
ゆえに〝鬼の力〟が弱く、二軍に回されていた団員達は交戦の必要すらなく、踊りを見ただけで体内から〝赤い霧〟や〝黒い雪〟を吐き出し、黄金と白銀の光に包まれて正気を取り戻したのだ。
「やったぞ。ガンガン行こう」
「クーデターなんてくだらないぜ、オレ達と踊ろう!」
あとがき
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