第593話 呉陸羽&栄彦 対 田楽おでん
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「紗雨ちゃんがまっすぐ行って、俺が横と後ろを走る。動きが読まれるなら、逆用するまでだ。二人なら、負けるものか!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、彼が被るサメを模した仮面となった少女、建速紗雨に触れながら断言。
「さ、サメエ。そうなんだサメエ。紗雨と桃太おにーさんは無敵なんだサメエ!」
「なるほど、紗雨ちゃんのやや前のめりな戦闘でわたしを誘導し、桃太君がフォローして隙をつく。二心一体だからこそ取れる戦術ということね。嫉妬しそう」
水色の短髪の上にセーラー帽をかぶり、水兵服を着た少女、佐倉みずちの老練な技運びに一度追い込まれたものの、二人の絆と連携を駆使して逆襲し、彼女の振るう水槍を破壊した。
「桃太お兄様っ、紗雨ちゃん。さすがです」
「私たちも支援したいところだが……」
「そうはいかん。其方達はわしが叩きのめすゆえに、な」
その頃――。
桃太と紗雨のチームメイトである、山吹色の髪を三つ編みに結った小柄な少女、呉陸羽と、彼女の叔父であるベテラン冒険者の呉栄彦は、鴉の濡れ羽がごとき黒髪が美しい、赤いサマースーツを着た麗女、田楽おでんと交戦中だった。
「舞台登場 役名宣言――〝修道鬼〟!」
栄彦は自らの相棒である、赤い山椒魚に似た虫の描かれた金属製水筒〟を天高く掲げて役名を高らかに名乗るや、身につけていたローブをはだけ、鍛え上げた上半身をあらわにして間合いを詰める。
「私が前に出て情報を掴むから、リウは援護射撃を頼む」
「わかりました。光の矢よ!」
姪の陸羽が手のひらから光矢を十本、連続で放つや否や、栄彦は上下一斉攻撃とばかりに、おでんの足元へ寝転がるように飛び込み、草を刈り取るような回転蹴りを見舞った。
「文字よ、舞え!」
しかしながら、おでんは叔父姪の息のあった上下一斉攻撃に対し、白魚のごとき細指で梵字のような文字を書き連ね、全身を覆ってあまりある大盾を二枚も作って双方を受け止めた。
「リウ、もう一回だっ。届くまで打ち込むぞ」
「はいっ」
栄彦はめげずに跳躍からの踵落としを繰り出し、陸羽は光の鞭を伸ばして盾の死角から迂回攻撃する。
「うむ。同門だけあって、桃太君と紗雨ちゃんに負けない、素晴らしい連携じゃ。こうでなくてはなっ」
しかしながら、おでんは二枚の盾を構成する文字を組み替え、四本の剣で陸羽の鞭を切り裂き、四本の槍で栄彦の体術を妨害する。
「クマ国代表のカムロさんですら、容易には突破できなかった鉄壁の防御か。ならば私も搦め手で行こう。〝鬼神具・酒虫水瓶〟よ。もったいないが、酒を水に変えてばらまけ」
栄彦は、その場で逆立ちするかのように跳ねて、おでんの手刀による反撃をかわしつつ、スキットルから霧のように水を噴射する。
この水を媒介に、味方の身体能力を増す強化術や、敵には反応速度低下や視野狭窄といった呪詛をのせるのが、彼の必勝法だったが――。
「栄彦君。わしは酒神サケトケノカミの飲み友達でな。あやつの技を受け継いだその水瓶が、術の触媒に適した酒やノンアルコールドリンクを散布する機能があるということを知っておる。ゆえに、空中散布を利用した手品のタネも既に割れていると知るがいい」
あとがき
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