第590話 桃太&紗雨 対 佐倉みずち
590
「えっ、みずちさんも、水の鬼術を使うのか!?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、彼がかぶるサメの仮面となった少女、建速紗雨は、地中から奇襲をしかけたものの、投げつけた水の手裏剣は水の盾で反射されてしまった。
「むっふふふう。桃太おにーさん。紗雨が使うのはジイチャン直伝のサメ術、並の水術とは一味違うんだサメエエ。射撃戦がダメなら白兵戦で仕留めるサメエエ。いっくよーサメ分身!」
紗雨はめげずにきりかえ、一体化した桃太と共に三〇体もの分身を展開。
仕切り直しとばかりに、囮で撹乱しつつ、再び目にも止まらぬスピードで疾走する。
「今のところ、みずちさんとおでんさんは連携が取れていないようだ。弱点とも言えないが、つかせてもらう」
「桃太おにーさんと紗雨のラブっぷりを見せつけるサメエ」
「……合体しているのにまるで違和感がない。見事な呼吸の一致ぶりね。でも惜しいかな、術の精度が甘い」
セーラー帽をかぶった水色の短髪少女、佐倉みずちが踊るように砂浜を踏むと、あたかも間欠泉のように海水が噴き出して……。分身体に水滴がかかるや、たったそれだけでかき消されてしまった。
「「い、いま何やったんだあ!?」」
戦闘を中継映像で見守る、焔学園二年一組のクラスメイト達はどよめき。
「「水ひとしずくが武器となる。これがみずち様の神業よ!」」
ウメダの里の住人達は酒の盃をかかげて喜びの声をあげる。
「ちょ、ま、え?」
「どうしてサメエエ?」
「水で作った分身体に、別の水を打ち込むことでバランスを崩して消滅させたのよ。便利な術ほど攻略法はあるものよ?」
みずちは胸を張って解説するが、桃太達は技量の差を知らされて焦るばかりだ。
「こんな対策法があったなんてっ」
「あわ、あわあわ。まだ、あわてる時間じゃないっ、桃太おにーさん。切り札を使うサメエ」
「待って、紗雨ちゃん。まだ早いんじゃ?」
「負けられないんだサメエっ」
紗雨は、波打ち際で海水を集めて、自身を中心に三角形を描く、三本の水柱を構築。拡散と収束を繰り返して、桃太の肉体をおおう白銀色の水からなる穿孔器を形成した。
「これで決めるサメ。必殺、〝銀鮫竜巻穿孔撃〟!」
桃太と紗雨は巨大なドリルとなって砂浜を疾走するも。
「ならばこちらも奥義を見せましょう。鬼術、天魔反戈!」
みずちもまた海水から生み出した水柱で、逆回転する穿孔長槍を作り出して迎撃する。
「ま、まずいぞっ」
「サメエエ、同じタイプの技サメエ!?」
桃太と紗雨がドリルと一体化して突っ込むのに対し、みずちはあくまで水柱のドリルを武器として使用した。
「うわあああ」
「サメメメエ!?」
そのため、インパクトの瞬間、桃太と紗雨が至近距離で反動を浴びたのに対し、みずちは水兵服を風になびかせながらひらりと回避した。
結果、二つの力が衝突したことで空いた大穴の中央で、桃太と紗雨は肩で息をきらす隙を晒してしまう。
「桃太君、紗雨ちゃん。貴方達は気性も戦い方もまっすぐよ。でもまっすぐ過ぎて物足りないの」
みずちは不敵に笑いながら間合いをつめ、右手で桃太の襟首を掴んでぶん投げた。
「ここは安全が保障されていた、遊戯用迷宮〝U・S・J〟の中じゃない。攻撃鬼術の威力に制限もないから注意してね。大渦投げ!」
更には、追撃とばかりに投げ飛ばされた着地点から再び水柱が噴き出し、洗濯機がごとき渦に飲まれて、桃太達は受け身もとれずに空中へと舞い上げられてしまった。
「こ、これはっ、紗雨ちゃんのもうひとつの決め技、〝銀鮫竜巻落とし〟に似ている!?」
「な、なんでジイチャンから習った紗雨の技が使えるサメ? ひょっとしてみずちさんは、姉弟子だったサメエエ?」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)