第588話 エキシビションマッチ開始
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「これより、遊戯用迷宮〝U・S・J〟地下三〇階到達記念、エキシビジョンマッチを開催する。ウメダの里はもちろん、迷宮内の休憩施設にも中継するゆえ、楽しんで欲しい。では、始めようか!」
鴉の濡れ羽がごとき黒髪が美しい、赤いサマースーツを着た麗女、田楽おでんが無人島の浜辺で戦闘開始を宣言するや……。
「「エキシビジョンマッチ、そんなのあったの!?」」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太のクラスメイト、焔学園二年一組の生徒達が、一斉に驚きの声をあげた。
ちょうどお昼時であったためか、迷宮探索をくりあげて、食事をとっていたメンバーも多かったのだろう。
「くっそ。出雲め、最終日に目立ちやがって。おれ達もスフィンクス像の厄介なクイズさえ解ければ、あそこに立てたのに!」
重くぶ厚い胸鎧を身につけた〝戦士〟隊の中でも、飛び抜けたタフネスを誇る林魚旋斧は、頭から雄々しく伸びたモヒカンを天へとかざし、屋台で買ったおにぎりを包む竹皮を握りしめて、悔しそうに街の石畳を殴った。
「林魚、気持ちはわからないではないが、出雲達が戦う相手は、あのおでんお姉さんだぞ?」
が、彼のチームメイトであり、術師隊のまとめ役でもある、髪の毛を七三分けでまとめた神経質そうな少年、羅生正之は、食べかけのサンドイッチをカバンに直して、林魚の手を術で治療し……。
「おでんお姉さんは、異世界クマ国代表カムロさんと、ウメダの里の広場をぶっ壊しながら互角に戦ってましたし、厳しい戦いになりそうです」
二人より先にざる蕎麦を食べ終えて装備のメンテナンスをしていた遊撃隊長、関中利雄も、救急箱から取り出した包帯を手早く林魚の手に巻きつけつつ、心配そうにつぶやく。
「「いくら出雲や紗雨ちゃんが強くても、今回ばかりは分が悪いんじゃないか?」」
異世界クマ国、ウメダの里を訪れていた地球からの客人、冒険者パーティ〝W・A〟の団員達は、ふってわいた危険なバトルにおおいに動揺していた。
「カムロ様の直弟子という、地球の勇者殿がおでん様に挑戦するのか?」
「今年は姫君の艶姿も見えるだなんて、ツイているなあ!」
一方、ウメダの里に住む民衆はおでんとカムロの戦いで慣れているのか、興味津々だ。
「さあ、桃太おにーさん。早速変身するサメエ」
「わかった。ここは出し惜しみなしで行く」
地球と異世界クマ国。二つの世界の住人の視線が集まる中……。
戦場となった無人島では、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が、切り札たる変身術を発動。
「舞台登場、役名変化――〝行者〟ッ。サメイクヨー!」
紗雨が桃太の左手首に巻きつけた、ヒビの入った翡翠の勾玉が白銀に輝くや、砂浜の一角を竜巻のように水が舞い、おでんとみずちの視界を閉ざした。
「「ここは、先手必勝だ(サメエ)」」
桃太は作り上げたわずかな隙をついて、白衣に鈴懸を羽織った修験者風の法衣姿となり、傷ひとつない白銀に輝く勾玉を左手に結わえ、紗雨が変じたサメ顔に似たお面を左目の上に被る。
そうして、右手に水のドリルを発生させて、砂浜をえぐるように殴りかかった。
「いくぞ、おでんさん」
「遠慮なくぶちのめすサメエエ」
あとがき
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