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カクリヨの鬼退治〜追放された少年が、サメの着ぐるみ少女と共に、勇者パーティに逆襲する冒険譚〜  作者: 上野文
第八部/第八章 出雲桃太と田楽おでん、三世界分離計画について論ずる
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第584話 〝宝石の船〟から〝十握の剣〟へ

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「アテルイは、仲間を戦争で失ってなお、〝宝石の船エーデルシュタインシフ〟と呼んでコツコツ組み上げていたのだけれど、自分の死を覚悟した時に、いつか大蛇と戦う者に譲ってくれって……わたしに預けたの。それから何年か後、八岐大蛇による二度目の侵略を受けた時、助っ人に来たスサノオと、彼の仲間だったカワウソの神が中心になって完成させて、戦闘艦トツカと名付けたわ」


 短く刈った水色髪の上に、セーラー帽をかぶり水兵服を身につけた、紫色の瞳をもつ少女、ガンバンテイン。

 自称、佐倉みずちの思い出話を聞いて、ベテラン冒険者の呉栄彦くれはるひこは船の名前、その由来に思い至った。


「ふむ、日本神話でスサノオが八岐大蛇を倒した時に使った武器、十握剣とつかのつるぎに因んだのかな」


 栄彦の問いに、みずちは首を縦に振る。


「ええ。戦闘艦トツカと名付けたのは、カワウソの神だったけれど……。アテルイ本人も完成させた際には、きっと同じように〝竜殺しに縁ある武器〟の名前をつけたことでしょう」


 みずちは背筋を伸ばして、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうた達に向き直った。


「アテルイがわたしに託した望みは、世界を蝕む侵略者、邪悪なドラゴンと戦う抵抗者に船を譲ること。半世紀前に戦ったカムロは必要としなかったけれど、わたしは貴方たちならば、この船を任せてもいいと考えている」


 みずちの太っ腹な提案に、桃太はごくりと生つばを飲み込んだ。


「ガ、ガンバンテインさんは……」

「出雲君。今のわたしは、佐倉さくらみずちよ。みずちと呼んで」

「すみません。みずちさんはこう言っていますか、おでんお姉さんは、俺たちが戦友の遺品を貰っちゃって良いんですか?」


 桃太の遠慮気味な問いかけに対し、迷宮の運営者であり、亡きアテルイの友――。鴉の濡れ羽が如き黒髪が美しい、赤いサマースーツを着た麗女、田楽でんがくおでんは意外にも鷹揚に頷いた。


「うむ。皆に愛されるマスコットになりたいなどという、分不相応な願いを抱いていたくせに……。生涯を闘争に明け暮れたアテルイが残したのは、自分亡きあとにも、民草が理不尽に抗うの剣じゃった」


 おでんは、遊戯用迷宮〝U・S・Jウメダのすごいジャングル〟地下三〇階に嵌められた耐圧ガラスの向こう……深海に停められた、全長およそ一〇〇メートル、幅一〇メートルの流水形の船を見て、懐かしそうに頬を緩めた。


「昔、我々の身内で流行ったジョークに、〝お前が死んだら鍋にしてやる〟というものがある。仲間の一部には正しく伝わっていなかったようじゃが、本来は、飯も食えない悲惨な戦場で、〝たとえ同胞の血肉を食らっても遺志を果たす〟という決意表明じゃよ」

「「……!?」」


 桃太達はおでんの過去に肝が冷えたが、同時に彼女の想いに胸が熱くなった。


「アテルイであれば、過去に〝高天原という異世界との交流で救われながら、地球を見捨てるのは道理にあわん〟と言うことじゃろう。クマ国、地球、異界迷宮カクリヨの〝三世界分離〟による平穏の維持ではなく、より根本的な解決を求めよ、とな。わしは、カムロの戦略もアテルイの願いも、叶えてやりたいのじゃ」

あとがき

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>お前が死んだら鍋にしてやる昔、我々の身内で流行ったジョークに、〝お前が死んだら鍋にしてやる〟というものがある おでん「弟分と妹分の間では獺鍋の研究が人気だったな」
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