第581話 ウメダのすごいジャングル、記念碑の正体
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「うむ。話はこれでおしまい。と言いたいのじゃが、わしではなく別の者……、火龍アテルイから遺産を預かった者が桃太君達に用があるそうじゃ。共に記念碑へ向かおうか」
西暦二〇X二年八月三一日昼。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、遊戯用迷宮〝U・S・J〟を、遂に最下層の地下三〇階まで踏破した。
彼は約束されていた賞品として、「師匠であるカムロが進める、〝地球と異世界クマ国、異界迷宮カクリヨの三世界分離計画〟の阻止に協力して欲しい」と、迷宮管理者の田楽おでんに願うが、ヒントこそ貰えたものの、それ以上の干渉は断られてしまった。
そのはずだったのだが……?
「え、アテルイさんの遺産ですか?」
桃太が驚きに目を見張ると、おでんは防音結界を構成していたしめ縄を解きつつ、鴉の濡れ羽がごとき黒髪からのぞく片目を茶目っ気たっぷりにつむってウィンクする。
「ああ。わし自身は協力できないが、亡き友アテルイならば、きっと別の選択肢をとるじゃろう。あやつの遺産を預かった者も、同じ考えのようじゃ。よし結界は解けたのう」
おでんは首を傾げる桃太の手を右手で掴むと、他のチームメイトに向けて満面の笑みで左手を振った。
「おーい、皆、こっちへ来てくれ」
「おでん、お姉さん」
桃太は一瞬、呆然としたものの、おでんの笑顔を見て肩から力が抜けた。
「桃太君。順番こそ前後したが、事前のルールでは『地下三〇階にある記念碑に到着したら、賞品として願いを叶える』という手筈じゃったろう? せっかく来たのじゃから見てゆくといい」
「は、はい。楽しみです。そういうの大好きですからっ」
声が届かぬが故に、桃太とおでんの交渉を固唾を飲んで見守っていた仲間達も、水族館フロアの奥へ向かう二人の雰囲気が、目に見えて柔らかくなったことでホッとしたらしい。
「サメー、そういえばそうだったサメエ」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨は喜び勇んで駆け出し……。
「記念碑って、どんなのでしょう?」
山吹色の髪を三つ編みに結った小柄な少女、呉陸羽も小走りに続く。
「お酒に合う景色だといいがねえ」
陸羽の叔父である呉栄彦は、赤い山椒魚に似た虫の描かれた|金属製の水筒スキットルを手にのんびりと後に続いた。
「「こ、これは、大きいっ!?」」
はたして桃太達が案内された場所は、巨大な船が係留された水中デッキだった。
耐圧ガラスの向こう側に見えるのは、尾に巨大なプロペラを備えた流線形の船。長さはおよそ一〇〇メートル、幅は一〇メートルと、地球産の軍用艦と並んでも遜色のない立派な潜水艦に見えた。
「おでんさん、あれ、めちゃカッコいいですね!」
「これが記念碑? まるでクジラみたいに大きい船サメエ!?」
「機械の使えないクマ国にこんな船が存在するなんて!?」
「あの研ぎ澄まされた刃のような艦首は外付けの衝角かな? 地球の葉巻型潜水艦や鯨型潜水艦とは似て非なる形だね。水滴、むしろ剣を模してあるのか」
桃太達がおでんに案内された船を前に騒いでいると、デッキの入り口から不意に声をかけられた。
「ようこそ異世界地球のお客人。あの船こそ、ウメダの迷宮に隠された記念碑。空、陸、海を自在に泳ぐ戦闘艦で、火龍アテルイが残した遺産よ」
あとがき
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