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カクリヨの鬼退治〜追放された少年が、サメの着ぐるみ少女と共に、勇者パーティに逆襲する冒険譚〜  作者: 上野文
第八部/第八章 出雲桃太と田楽おでん、三世界分離計画について論ずる
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第580話 交渉決裂か、それとも?

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「桃太君、お姉ちゃん、じゃ。わしの知るカムロという男は、地球を攻撃したいわけではないし、身勝手に世界環境を作り変えるつもりもないよ。ただ地球とカクリヨとクマ国、三つの世界をそもそもの〝あるべき〟世界に戻すだけじゃ」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたは、鴉の濡れ羽がごとき黒髪が美しいウメダの里の実力者、田楽おでんにさとされるも、胸の中でうずまく激情を抑えられなかった。


「それはそうですがっ。〝あるべき〟世界とやらに戻したら、その後に起きる犠牲は無視ですかっ!」


 桃太のだって師匠であり、異世界クマ国の代表でもあるカムロの選択は、理屈の上では正しいとわかっている。その上で感情として受け入れられないのだ。


「桃太君が故郷を愛する気持ちは、お姉ちゃんにもよくわかる。

 じゃが、おそらくは八岐大蛇が手を貸したにせよ……。

 身の丈にあわない兵器実験で、クマ国と地球、カクリヨという、三つの世界を繋げたのも……。

 他の世界がなければ成立しない、歪な社会構造をつくりあげてしまったのも……

 地球側の自業自得じゃろう?」


 桃太はおでんに指摘されて、今まで打ち倒してきた八大勇者パーティの身勝手な行動をかえりみた。


(私欲のために、同胞の命を生贄いけにえささげた黒山犬斗くろやまけんと

 虚栄きよえいのために、日本国中に電気災害を引き起こした四鳴啓介しめいけいすけさん。

 亡き英雄への劣等感から、異世界クマ国まで巻き込むクーデター騒動を引き起こした七罪業夢ななつみぎょうむさん。

 誰も彼もが都合の良い未来だけを願って、破滅に向かって走った。そんな悪鬼が跋扈ばっこする世界との繋がりは断つべきだと言われれば、返す言葉もない)


 桃太は深呼吸すると、おでんに向かって頭をさげた。


「すみません。本当は、俺たちの世界のことは、俺たちがケリをつけるものでした」


 同じ地球日本に住む桃太たちですら、堕落してテロリストとなった元八大勇者パーティの悪行に怒りを覚えるのだ。

 一方的に巻き込まれる側のクマ国人ならば、揉め事を持ち込むなと追い出されても文句は言えまい。


(今の俺には、おでんさんやカムロさんを納得させるだけの手札がない)


 先に対処するべきは、変えるべきなのは、異世界クマ国ではなく、地球の方なのだろう。

 三世界融合のメリットを示すことができなければ、今の関係はいずれ破綻する。


「すまぬな、桃太君。クマ国の住民は、先代文明や地球人とは、肉体も精神構造も異なるが、一千年にわたる平和を維持してきたのは、代々の連中が頑張ったからじゃ。創世神カミムスビが見守ってきた子らの努力に報いるためにも、わしはキミの願いを叶えられない」

「いいえ、おでんお姉さん。〝地球と異世界クマ国、異界迷宮カクリヨの三世界を分離する方法〟を教えてくださってありがとうございました。俺は俺なりのやり方で師匠と向き合おうと思います」


 桃太は、カムロから薫陶くんとうを受けた弟子として、おでんの祈りを、願いを、尊重したかった。だが、彼にもまた、諦められない理由がある。


(もしも黒騎士の正体がリッキーなら、カムロさんと対立するクマ国の反政府団体〝前進同盟ぜんしんどうめい〟と、俺たち冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズ〟の落とし所も変わってくる。

 おでんさんが事情を明かしてくれたおかげで、絶望的状況を覆す蜘蛛くもの糸が見えた。……地球にはびこる〝鬼の力〟に対抗するためにも、クマ国に示すメリットを見出すためにも、オウモさん達の力が必要だ。彼らと協力し、カムロさんを止める!)


 桃太が頬をガチガチにこわばらせていることに気づいたか、おでんは柔らかい視線で微笑みかけた。

 

「うむ。話はこれでおしまい。と言いたいのじゃが、わしではなく別の者……、火龍アテルイから遺産を預かった者が、桃太君達に用があるそうじゃ。共に記念碑きねんひへ向かおうか」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
オウモ「そうだな、桃太君。一日48時間労働を強いるアンニャローを協力してとっちめよう」 カムロ「まずはそちらが100年に渡る強制残業をやめて謝罪するべきではないかな?」
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