第56話 クマ国の火薬庫
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西暦二〇X一年、一一月二六日正午。
クマ国と元勇者パーティ〝C・H・O〟の戦闘は、半日とかからずに決着した。
カムロは浅く息を吐いた。
半世紀以上に亘ってクマ国を導いた幽霊は、何もかもが思うように運ぶわけではないことを知っていた。
されど、彼の治世に慣れた部下達はそうではない。
主力の妖怪軍団を率いる白髪の老軍人コウエンと、遊撃の鳥人部隊を指揮する黒翼が生えた青年アカツキは、冒険者達の遺体を回収中に取っ組み合いを始めてしまう。
「転移術による離脱だと!? アカツキ、退路遮断は八咫烏の役目だろう。カムロ様の前で何たる失態だ!」
「コウエン将軍。我々は厳重な抑制結界を張っていた。ヒメジの軍勢こそ目の前でみすみす逃がすなんて、いったい何の為の鍛錬だ!?」
コウエンとアカツキは、以前から犬猿の仲として知られている。
とはいえ、彼らの部下達も、直属の上司が喧嘩に明け暮れていては作業の手が止まるというものだ。
「コウエン将軍もアカツキも止せ。敵将の離脱は、〝千曳の岩〟による強制転移だろう。異界迷宮カクリヨには、クマ国の技術を超える八岐大蛇の遺産が眠っているんだ。二人とも敵を侮るな。今回は武運に恵まれたが、本職の自衛隊や米軍が相手なら、敗北したのはこちらかも知れないんだ」
「ハッ」
「わかりました」
カムロは敬礼するアカツキとコウエンに頷くと、幸運にも生き延びた栄彦と孔偉らの班へ視線を向けた。
「後はキミ達だけだが、まだやるかい?」
「呉栄彦です。私達はクマ国に降伏します」
「東平孔偉だ。うちの実家は裕福で、身代金なら払うから助けてくれないかな?」
栄彦や孔偉ら、黒山の粛清を免れた二〇名の生存者が、カムロに降伏を申し出たのは自然な成り行きだった。
「呉栄彦は、冒険者パーティ〝G・O (グレート・オーキス)〟の副代表だった呉雍元の孫で、東平孔偉は、獅子央家縁戚の跡取り息子か。とはいえ、キミたちは日本国が指定するテロリスト団体の一員で、クマ国に侵入して里を焼いた重犯罪者だ。身代金は不要だが、こちらの指示に従ってもらう」
カムロが抑揚の無い声で言い放つと、近くで作業していたコウエンが脅すように自らの首へ手を添えた。
「幸い民間人の死者は無かったといえ、神職や軍人には殉職者が出ています。カムロ様、このような奸賊どもは首を切って晒すべきでは?」
「コウエン将軍、よせ。それより、三味線を持ってきてくれないか」
「御大将自らの演奏に立ち会えるとは、ワシは感激です!」
カムロはコウエンが要塞内から持ち出した三味線を抱くと、状況がわからず目を白黒させている栄彦らに呼びかけた。
「これから、キミ達に取り憑いた鬼の力を払う。子供達には舞踏を教えたが、あいにく僕は踊りが不得手でね。慰霊も兼ねて一曲弾くよ」
あとがき
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