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第573話 紗雨の一族

573


「ううう。ご先祖様といえ、やっぱりよくないと思うサメエ。カムロジイチャンってば、重婚をしていたことを明かしたくなくて、紗雨に教えなかったサメ?」


 サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女、建速紗雨たけはやさあめが疑問をつぶやくと、クマ国創世より一千年を生きる付喪神つくもがみ、田楽おでんは鴉の濡れ羽がごとき美しい黒髪をかき乱しながら、怒りと呆れ、羨望せんぼう寛容かんよう、様々な感情が入り混じった複雑な表情で首を横に振った。


「紗雨ちゃん、言ってやるな。お姉さんもかつては奴らのただれた生活ぶりにはムカっ腹がたったものじゃが、スサノオ夫妻にとってはあの形が一番だったんじゃろう。それにカムロはスサノオの記憶を引き継いでいるが、肉体的にはまったく違う存在じゃ」

「じゃあ、魂は……っ」


 紗雨はクマ国の生まれであり、代表カムロの養女であるが故に、隠された世界の法則を知っていた。

 クマ国では創世神カミムスビの持つ異能の影響で、優れた術者が儀式をすれば、極めて稀ながら死者蘇生が叶うという。

 彼女は、自身の養父カムロこそは、〝亡きスサノオの魂を新しい肉体に入れた存在ではないか?〟という疑問を抱いたのだ。


(でも、ジイチャンはジイチャンだし、ややこしいことはどうでもいいか)


 しかし、その重要そうな気づきは、紗雨の養父への甘えによって一瞬で記憶の奥深くへと仕舞い込まれた。


「ううん、ジイチャンのことは質問と関係なかったサメエ。おでんオネーチャン、紗雨の一族についてもっと教えて欲しいサメエ」


 紗雨に促され、おでんはその後にあったことを口にした。


「うむ、話を続けようか。

 武神スサノオと複数人の妻たちの間に生まれた子供たちは、後年、建速たけはやという姓を名乗り、創世神カミムスビを支えた。

 八岐大蛇に荒らされた大地を切り開いて里を作り、緩やかな連帯をもってクマ国を維持し、半世紀前に三度目の侵略を受けた折も戦士として抗った。

 多くの英傑が倒れたものの、クマの里でカムロが召喚された後は、生き残った者たちが、あやつに協力して大蛇どもを退けている」


 おでんはそこまで口にして言いよどんだものの、深呼吸した後に決定的な事実を告げた。


「紗雨、お前は建速一族のただ一人残った末裔まつえいだ」


 紗雨の輝いていた瞳が、曇る。


(ああ、やっぱりだったサメエ)


 彼女だって、自分だけが養父のカムロに育てられた理由は、なんとなくわかっていた。先祖や一族のことを何も教えられていなかった由縁を理解していてなお、心がきしんだ。


「紗雨の父ちゃんや、母ちゃんはもういないの?」

「ああ。半世紀前の戦いを乗り越えた数少ない生き残りも、一〇年前にとある鬼、八岐大蛇の首の襲撃を受け、其方そなた一人を守り抜いて果てた」


 紗雨は、おでんが明かした家族の最後を聞いて、手を強く握りしめて叫んだ。

 彼女の語尾からは、いつの間にか特徴的な語尾が消えていた。


「一〇年前になにがあったの? いったい誰が紗雨の家族を殺したの!?」

「これ以上は言えない。紗雨ちゃんが充分に成長するまでは、其方の過去を決して明かさない。わしはそう、カムロと約束したからじゃ」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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>スサノオ夫妻にとってはあの形が一番だったんじゃろう 邪竜「所詮は2番目以降の悪足掻きだね」
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