第569話 呉陸喜の安否
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「いやったあああ。お酒、ごちになります!」
「そうか。叶える願いは、単純に大きければ大きいほど良いというものではないか。お姉さんも学ばされたよ。栄彦君、次は君の姪を呼んでくれ」
鴉の濡れ羽が如き黒髪のサマースーツを着た麗女、田楽おでんは、ベテラン冒険者、呉栄彦に対し、好物の酒を振る舞うことを約束した。
歓喜にむせぶ叔父に続いて、呼びだされたのは、山吹色の髪を三つ編みに結った小柄な少女、呉陸羽だった。
「おでんお姉さん。うちの兄、呉陸喜は地球日本の元勇者パーティ〝C・H・O〟が引き起こしたクーデターで命を落としました。でも、兄の死体は幹部だった鷹舟俊忠の命令で地上に運ばれた後、行方不明になっているんです」
陸羽は感情のあまり、両の瞳を涙で濡らし、唇を震わせながら願いを口にした。
「うちは、本当にお兄様が死んでしまったのか、どうしても知りたいのです。おでんお姉さん、どうか力を貸してください」
おでんは困ったように眉をひそめ、サマースーツの胸ポケットから手帳を取り出して、ペラペラとめくった。
「わかった。実は既に調べてある。まずそなたの兄、呉陸喜は間違いなく一度命を落としている」
「……」
陸羽はショックのあまりふらりと倒れたが、とっさにおでんが手を伸ばして支えた。
「陸羽よ。信じられないかも知れないから、順を追って話す。
クマ国神話を学んで、もう気がついているかも知れないが、クマ国の創世神カミムスビは、魂と生命に干渉する異能を持っている。
八岐大蛇の犠牲となった前世界の人々の魂を取り戻し、可能な限り復活させたのがクマ国の創世であり、彼女の治世の始まりだ」
「は、はい?」
陸羽はあまりに桁のはずれた異世界神話の真相に目を丸くして、次に胸の中で希望が膨れ上がった。
地球においては地球の物理法則が支配するように、異世界クマ国では異世界クマ国の法則が支配しているのだ。
「じゃあ、カミムスビさんなら、死んだ兄を生き還らせることができるんですか?」
「そうだ。正確には、カミムスビでなくても、禁忌の儀式を用いれば復活する可能性がある。なぜなら、カミムスビという神格が管理する世界、〝クマ国には死者復活の概念がある〟からだ。……そして、今はキミたちの故郷、地球もまた異界迷宮カクリヨを通じて〝クマ国と繋がっている〟」
「まさか、ひょっとして、そうなんですかっ!?」
陸羽は思いもよらぬ事実を知り、雷にでも打たれたかのごとく愕然とした。
「今の地球は、カミムスビの影響で死者蘇生が可能なんだよ。施術可能な術者は限られているし、大抵は失敗して灰になるからオススメはしないがね。そなたの兄は、幸運にも冒険者組合本部で再び命を取り戻すことができたらしい」
それは、桃太の親友であり、陸羽の愛する兄、呉陸喜の生存を意味していた。
「お兄様は、呉陸喜は、本当に蘇生して、生きているのですか?」
「そうだ」





