第567話 クマ国神話の答え合わせ
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「正解だよ。クマ国神話とは、一千年前、別の世界から来訪者を迎え、彼らの助力によって八岐大蛇とその眷属を追い払い、建国を果たした英雄達の伝承に他ならない」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、異世界クマ国、ウメダの里に作られた遊戯用迷宮〝U・S・J〟の地下三〇階へ遂に到達――。
これまでスフィンクス人形が問いかけてきたクマ国神話の裏側を知った。
「おでんさん。かつて異世界からやってきた冒険者達は、紗雨ちゃんの言うようにあとから神の名前を贈られたのですか? それとも自ら神の名前を名乗ったのですか?」
桃太が問いかけると、一〇〇〇年以上に及ぶ長き時を生き抜いた付喪神、田楽おでんは赤いサマースーツの袖から伸びた手で瞳をおおい、最深部に建てられた深海水族館フロアの中心で、昔を懐かしむように浅い息を吐いた。
「おでんお姉ちゃん、だよ、桃太君。さっき紗雨ちゃんが言ったとおりだとも。一千年前に八岐大蛇と戦った連中も、別に神の名前を名乗ったわけじゃない。クマ国の民衆に請われて話した日本神話と混ざり合った結果、習合されて元の名前が失われてしまったのさ」
「だ、だったら、おでんオネーチャンは、どうして訂正しなかったサメエ?」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が首をかしげるも、おでんは鴉の濡れ羽が如く美しい黒髪をかきあげながら、木で鼻をくくったような態度をとった。
「わしには関係のないことじゃからな。……スサノオの記憶を引き継いだカムロいわく、己の名前を残したがる連中でもなし、その方が良いだろうとのことじゃ。まあ、馬鹿息子が祟り神として後世に伝わったのは笑うしかないがね」
桃太達は、おでんの半ばやけっぱちじみた笑みと息子への評価に対して思わず息を呑む。
「笑いごとじゃないですよ。拡大解釈で悪名が残っているなら、訂正しないと息子さんが可哀想です」
「アマツミカボシはトリックスターだが、さすがにやりすぎの感があるぞ」
山吹色の髪を三つ編みに結った小柄な少女、呉陸羽や、彼女の叔父であるベテラン冒険者、呉栄彦らが口々に抗議したものの――。
「冤罪なら訂正もするがね。馬鹿息子のやらかしをアルコール度九〇パーセント以上の原酒とするなら、氷神アマツミカボシの伝承は万人に受け入れやすいよう炭酸水と氷で割ってハイボールにしたものだ。あれで九割り増しにマイルドなのじゃよ」
「「九割マイルドって、本物はどれだけ迷惑な人だったんだ!?」」
おでんのネタバラシに、桃太達は頭を抱えた。
とはいえ、あまりに所業が突飛すぎた場合、世人が受け入れ難いのはそうだろうと、変人奇人に慣れた彼らは納得できた。
「育ての親の欲目で見てなお、見えているトラバサミを敢えて踏みに行く馬鹿じゃった。
おかげで止めようと奮戦していたはずの火神ヒノカグツチまで巻き込まれて悪評が残ったのは悪いと思うが……。
アイツはアイツで、雷神タケミカヅチと刀神フツノカミ。並行世界の同一人物を二人一緒に娶ったイカレポンチじゃったからな。
片方が付喪神になっていたからって、〝自分たちは娘じゃなくて戦友だ〟なんて説得を受け入れるか? あの一件だけであやつを庇う気が失せた」
「「それが分身の真相? もはや何がなんだかわからないよ!?」」
氷神アマツミカボシの好敵手であった火神ヒノカグツチも、どっこいどっこいのぶっ飛んだ人物だったらしい。
「さて、ここから先は……ほとんど障害もない。消音の結界をはるから、記念碑に行く前に願いを教えてほしい。わしにも叶えられない願いがあるゆえに、な」
あとがき
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