第566話 地下三〇階、田楽おでんの出迎え
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「ようこそ遊戯用迷宮ウメダのすごいジャングルの最下層、地下三〇階へ」
西暦二〇X二年八月三一日午前。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太達が、外周を耐水ガラスが覆う水族館めいた部屋に見惚れていると、曲がり角から鴉の濡れ羽が如き黒髪が美しい、赤いサマードレスを着た女性が現れた。
彼女こそは、異世界クマ国ウメダの里の顔役であり、桃太達が潜ってきた遊戯用迷宮〝U・S・J〟の運営者でもある付喪神、田楽おでんだ。
「最後のフロアは、深海水族館だ。地球とは違うが、めったに見られない景色だろう。存分に楽しんでほしい」
おでんが耐水ガラスの向こう側では、さまざまな種類の魚たちが泳いでいる。
ずんぐりむっくりとした体とツボのような口を動かして泳ぐ大魚から、発光しながら周囲をゆったりと水流に身を委ねている中魚、群れを作り素早く回遊する小魚までさまざまだ。
「サメエ。こんなにいっぱいのサメ、うっとりしちゃうサメエ」
サメの着ぐるみを被った銀髪碧眼の少女、建速紗雨は大好きな鮫が泳ぐ姿に見惚れ……。
「すごく、綺麗」
「この絶景を見れただけでも、来た甲斐があったかなあ」
山吹色の髪を三つ編みに結った小柄な少女、呉陸羽も小動物のように跳ねながら魚達を見回し、彼女の叔父である呉栄彦も満足げな笑みを浮かべつつ腕を組んだ。
「桃太君、紗雨ちゃん、陸羽ちゃん。栄彦君。ここまで大変だっただろう? サケトケノカミが残した〝鬼神具〟が手を貸していたようだが、スフィンクスのクイズには苦戦したんじゃないかい?」
「「はい、たいへんでした(サメー)」」
桃太は重い息を吐き、紗雨や、陸羽、栄彦もそろって同じ反応を見せた。
「おでんお姉さんは、一千年を生きる付喪神なんですよね。クイズで語られた事件は、本当にあったことなんですか?」
桃太が意を決して問いかけると、おでんは茶目っけたっぷりに片目を瞑ってウィンクし、逆に問いかけてきた。
「エクストラクイズだ。キミ達はどう思う?」
「なんとなくですが、本当にあったことだという印象を受けました。でも神様ではなく、俺たちと同じような人間が八岐大蛇と戦ったんだと思います」
「うちも、桃太お兄様に賛成です。これは地球の話ですが、神話は過去にあったなんらかの史実を元に脚色した伝承という説もありますし」
「おでんオネエサン。
こいつはオジサンの推測だが、クマ国創世神話の場合、一千年前に、高天原なる異世界から降臨し、八岐大蛇と戦った神々は……。
我々のように、繋がった異世界から現れた冒険者だったんじゃないか?
だとすれば、やたら人間味のある行動も理解はできる」
桃太が解答し、陸羽と栄彦も補足する。
「サメエ? ということは、元々偉業を為した人がいて、その人たちに神話として神々の名前を当てはめたサメエ?」
そして、生粋のクマ国人である紗雨がようやく得心したとばかりに、急所へと切り込んだ。
おでんは四人の反応に対して、愉快そうに白い歯を見せた。
「正解だよ。クマ国神話とは、一千年前、別の世界から来訪者を迎え、彼らの助力によって八岐大蛇とその眷属を追い払い、建国を果たした英雄達の伝承に他ならない」
あとがき
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