第565話 いよいよ最後の階層へ
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「カムロさんの梅干しは美味しいし、三味線も栄彦さんの話じゃそんなにひどくないはず。でも、スサノオさんはカムロさんと違うからな。紗雨ちゃんの言うとおり、ひょっとして百パーセントの善意だったのに、裏目に出た可能性もあるのか?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は目をつむって、一千年前の異世界クマ国に思いをはせた。
八岐大蛇のエージェントを自称する伊吹賈南は、祖先が食べたスサノオの嫁が作ったご飯は、軍勢が壊滅するレベルの超絶マズメシだったと記憶している。
たまたま差し入れの弁当にヤバめなおかずが混入し、スサノオの演奏もカムロほど上手ではなかった場合……。
おばちゃん幽霊は「これ以上ひきこもっていたら何をされるかわからない」と涙目で屋敷を飛び出すことだろう。
『実は、創世神カミムスビも出るタイミングを伺っていたようです。屋敷を飛び出した彼女の眼前には、武神スサノオによる祭りの支度が整っていました。彼女は、宴の準備を台無しにしたことを土下座して詫びる火神ヒノカグツチと氷神アマツミカボシを許し、万雷の拍手で迎えた神々と手に手を取って舞い踊り、念願の祭りを楽しんだそうです。以上で補足を終わります』
「ああ良かった。創世神カミムスビは、報われたんだね」
桃太は目と鼻の奥が熱くなり、ごしごしと顔を手の甲で拭った。
「……桃太おにーさん、最後がハッピーエンドだからって、途中経過を無視しちゃ駄目サメエ。サメ映画でも、そうそうないほどのトンデモ展開なんだサメエ」
が、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨の反応は冷ややかだった。B級映画が大好きな彼女から見てなお、ツッコミどころ満載な解決法だったから無理もない。
「はうっ。カミムスビさんってば、クマ国を救うためといえ、助っ人の人選を間違いすぎじゃないですか?」
「常識的な神々もいたんだろうけど、毎度脱ぐ智神オモイカネに、ナンパ大好きな火神ヒノカグツチ、トラブルメーカーの氷神アマツミカボシ、食事と音楽で家から追い出す武神スサノオ……。まるで神様というより焔学園二年一組の皆みたいだね」
おまけにチームメイトの、呉陸羽と彼女の叔父である呉栄彦の指摘で、桃太達にまで飛び火する始末だ。
「待ってください。俺たちはそんなに尖っちゃいないです」
「桃太おにーさん達も、おんまり人のこといえないサメエ。ともかく扉を開くサメエ」
そうして桃太達が踏み入った迷宮最後の階層、地下は、外周がガラス張りの、落ち着いた照明と、かすかな笛の音が流れる水族館のような空間だった。
「これが地下三〇階。」
「わあい、お魚さんがいっぱいだサメエ。鮫もいるサメエ!」
「す、すごいです。まるで海の中にいるみたい」
「こいつは驚いた」
桃太達が想像もしなかった光景に魅入られ、それぞれ喜びを噛み締める中、凛と澄んだ声が響いた。
「ようこそ遊戯用迷宮、ウメダのすごいジャングルの最下層、地下三〇階へ」
あとがき
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