第55話 カムロ 対 〝車輪鬼〟ブエル
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「グヒャハハハハ。ブエルよ、存分に喰らうがいい。バケモンにはバケモンをぶつけないとなあ!」
「た、たすけて」
「ひいいいいい」
二〇〇人いた冒険者達は、クマ国軍が設置した有刺鉄線を越えることも、元いた山岳地帯に戻ることも叶わず、黒山犬斗が操る、悪魔の車輪めいた鬼ブエルに轢きつぶされ、獅子のあぎとに噛みつかれて、儚い命を散らしていった。
「〝C・H・O (サイバー・ヒーロー・オーガニゼーション)〟の指揮官は、あの車輪の鬼をブエルと呼んだな。確か、ソロモン七二柱に数えられる魔神の一柱だったか」
「グヒヒ、あの女がくれた力だ。伝承なんざ知らねえよ。北の軍事国家が、特殊な被検体に豚鬼三〇〇体の肉と小妖鬼二〇〇体の脳髄、獅子頭蟲や諸々を食わせて創りあげた、最強のサイボーグ兵だ」
げんなりとするカムロに、黒山は黒い唾を飛ばしながら勝ち誇る。
「礼を言うぞ、カムロとやら。よくぞ他のサイボーグ戦士を先に殺してくれた。グレネードを撃てる奴らがいない以上、もはやわしとブエルを脅かすものはいない。この黒山犬斗こそが、地球と異世界を治める〝勇者〟となるのだ!」
「仮にも戦友だろうに、最初から粛清目的で戦場に連れて来たのか、この腐れ外道め」
クマ国のまとめ役であるカムロは黒山の妄言を無視して歩を進め、獅子の頭と山羊の足を持つ〝車輪鬼〟へ、手を差しのべる。
「ブエル。ずっと苦しかっただろう、辛かっただろう。お前を解放しよう」
「馬鹿め、のこのこと近づきやがった。わしのブエルの、新たな生贄となれっ」
「AAAAAAA」
黒山がべろべろとナイフを舐めながら命じると、ブエルはその巨体でカムロを押しつぶし、獅子のあぎとで食らいつこうとした。しかし――。
「頭に大雷、胸に火雷、腹に黒雷、陰に析雷、左手に若雷、右手に土雷、左足に鳴雷、右足に伏雷……」
カムロの全身が八色の雷光に包まれたことで、組み付いた悪魔の巨体はびりびりと通電して、錆びた鉄のような匂いを発しながら焼けただれる。
「八色雷公をもって、歪められた悪鬼を大地に還す!」
次の瞬間。カムロは両手の雷を二刀流のように振るい、赤い霧と黒い雪で構成された〝車輪鬼〟ブエルをエックス字に切り裂いた。
「カムロ……スパシーバ(ありがとう)……」
獅子の顔からこぼれ落ちた、もはや顔すら原型を留めていない被験者は、感謝の言葉を口にして、黄金と白銀の光に包まれて消えていった。
「黒山犬斗。お前は、生かして帰さない。悪逆の報いを受けろ」
カムロはブエルを成仏させた後、すぐさま黒山へ斬りかかった。
元悪徳官僚の義足から八発の銃弾が連続発射されるが、仮面のまとめ役は雷の刀を変幻自在に振るい、全弾焼き尽くした。
「くそお、くそお。ブエルめ、情けない。役立たずどもが足を引っ張りやがって。貴様はなんだ、神かそれとも悪魔か?」
「ただの幽霊だ」
「幽霊如きがデカい面をする。わしは〝勇者〟だぞ。絶対に死なん! 〝千曳の岩〟よ、わしを救え」
しかし、カムロが振るう雷の二刀が届く前に、黒山犬斗の肉体は、空間の裂け目に包まれて消えてしまう。
「どういうことだ。〝千曳の岩〟と契約を交わしたのは、三縞家の当主、凛音ではないのか? だとすれば、僕も桃太君達も、何かを見落としていることになる」
あとがき
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