第563話 武神スサノオの解決策?
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『次の方、どうぞ』
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、遊戯用迷宮〝U・S・J〟の地下三〇階へ続く扉前に三体並んだスフィンクス人形に回答を促され、ごくりと生唾を飲んだ。
『改めて問います。クマ国創世の時代、神々と呼ばれた者達は、創世神ひきこもり事件をどのように解決したのですか?』
最後の守護者となった中央の個体による問いかけは、一千年前に作られた〝鬼神具・酒虫水瓶〟の指導を受けて、クマ国の神話や歴史に詳しいベテラン冒険者、呉栄彦でさえ答えられなかった難題である。
(だめだ。思いつかない)
桃太はなす術もなく、妙案もないままに解答を捻り出そうとした。
その前に栄彦の姪である、山吹色の髪を三つ編みに結った小柄な少女、呉陸羽がスフィンクス人形の前に飛び出した。
「こ、こういう時は自分の立場になって考えなきゃ。お詫びにお花とか化粧品とかを用意して、出て来たところをあなたが必要なんだって説得するんです」
「さすがリウちゃん。これならいけそう」
陸羽の解答は筋道が通っていたため、桃太も期待したが――。
『惜しいですが、不正解です。火神ヒノカグツチや、雷神タケミカヅチ、刀神フツノカミがかわるがわる交渉を試みたものの……。この時、創世神カミムスビは氷神アマツミカボシが盛大にやらかしたせいで疑心暗鬼となっていたのか、あらゆる面会を拒否されました。次の方、どうぞ』
「「氷神アマツミカボシいいい!?」」
彼が、養母である田楽おでんから絶縁状を叩きつけられたのも納得の惨状である。
「こんなの答えられるものかっ」
「そりゃあ史書にも残せませんよね」
「とんでもない人が居たものだサメエ」
もはや、解答可能なのは桃太一人。
罰ゲームのスフィンクスビームは避けられないと思われたが……。
「待てよ。紗雨ちゃんも、栄彦さんも、リウちゃんも、皆のアプローチは正しかったはずだ。つまり神話として伝わり、カミムスビさんが喜びそうで、カムロさんがやりそうなことを考えるべきなんじゃないか?」
桃太は、これまでクイズに挑んだチームメイト達の回答を再検討することで、活路を見出そうとした。
(栄彦さんの調べによると、最終解決したのは、スサノオさんらしい。彼のことは知らないが、その記憶を引き継いだというカムロさんなら、どうするのか考えるんだ!)
桃太のまぶたの裏には、おばちゃん幽霊の引きこもる館の前に立つ、牛頭の仮面をかぶるカミサマっぽい人がいる情景が、ありありと浮かんでいた。
先ほど、スフィンクスは陸羽の回答を惜しいと言った。面会を拒否されたのなら、直接会って話す以外の手段で、心を動かせば良いのではないか?
「スフィンクス、答えを言うよ」
桃太は自分よりも背の高い、半人半獣の人形に向き直った。
「武神スサノオさんは公務を離れ、氷神アマツミカボシを叩きのめしたって言っていたよね。その後、カミムスビさんの館に料理を差し入れし、門の前で三味線を奏でて説得した。これでどうだっ!」
『――ほぼ正解です』
あとがき
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