第561話 創世神ひきこもり事件
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『続いて第二問です。先ほどの問題の回答となるバッドエンドコレクターのプー太郎が引き起こした最悪の事件の名称を以下の三つから答えなさい。
ひとつ、喧嘩祭り、火山噴火事件。
ふたつ、常識爆散、街中全裸徘徊事件。
みっつ、残忍無惨、創世神ひきこもり事件』
「「「なにやってんだああっ」」」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太達は、遊戯用迷宮U・S・J、最後の扉を守るスフィンクスの問いかけを聞いて、呆れるばかりだった。
挙げられた三つの事件は、名前だけでもハチャメチャだったからである。
「はうっ。うち、これわかります。ウメダの里の図書館で調べた時、日本神話のアマテラスさんの逸話に、似たようなエピソードがあったから覚えていたんです」
この難題に対し、山吹色の髪を三つ編みに結った小柄な少女、呉陸羽が一歩進み出た。
「スフィンクス、答えを言うね。氷神アマツミカボシが引き起こした一番危ない事件は、創世神ひきこもり事件でしょっ!」
陸羽が問いかけに応じると、スフィンクス人形は一呼吸置いて告げた。
『正解です』
「すごいぞリウちゃん」
「やったサメエ!」
桃太は陸羽の手をひいて、サメの着ぐるみを被った銀髪碧眼の少女、建速紗雨と三人でハイタッチを交わし、二問目突破に喜んだ。
「なるほど。喧嘩祭り、火山噴火事件と、常識爆散、街中全裸徘徊事件も、氷神アマツミカボシが遠因となって起きたトラブルらしいが……、解答には相応しいのは主犯となった三番目だったのか!」
陸羽の叔父、ベテラン冒険者である呉栄彦が、赤い山椒魚のような虫が描かれた金属製の携帯水筒で喉を潤しながら補足して、緊張を解いた。
「おじさま、中身はお酒じゃないでしょうね?」
「水だよ、水。ほら匂いがしないだろう?」
「香りの少ないお酒もあるから、怪しいです」
栄彦は彼が持つ〝鬼神具・酒虫水瓶〟に水を酒に変える能力があると明らかになって以降、彼の酒量を心配する陸羽にしょっちゅう疑われていた。
「火神ヒノカグツチと氷神アマツミカボシ、それにカミムスビさんがある種の家族っぽい関係だったのは、伝わってきます」
三者の衝突も、栄彦と陸羽くらいであれば問題ないのだが……。
「だとしても、創世神ひきこもり事件って名前からして、悪い予感しかしない」
桃太は、彼の知る八岐大蛇の第五の首、隠遁竜ファフニールが、よれた金髪を輪ゴムで結えた頭だけコタツから出した姿を想像しながら、冷や汗を流した。
「〝鬼神具・酒虫水瓶〟から聞き出した前提状況を説明すると……。
創世神カミムスビは、母親のように慈愛に満ちた姿勢で火神ヒノカグツチと氷神アマツミカボシをあやしていたが、彼女が期待していたお祭りを二神の喧嘩で台無しにされてしまい、遂にショックのあまり館にひきこもったらしい。
リウの言った通り、日本神話だと日蝕を象徴する天岩戸の逸話に相当するエピソードだね」
「それはひどい」
「かわいそうすぎるサメ」
「あまりといえばあまりな仕打ちです」
栄彦が語る事件の内容は、残酷だった。
日本神話も太陽神アマテラスが天岩戸に隠れた逸話があるが、この場合、注目すべきは解決法だろう。
そして、中央のスフィンクス人形が間髪入れずに最後の問題を問いかける。
『いよいよ第三問、最後の問題です。クマ国創世の時代、神々と呼ばれた者達は、創世神ひきこもり事件をどのように解決したのですか?』
あとがき
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