第560話 氷神アマツミカボシの暴挙
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「日本神話では悪神とされる氷神アマツミカボシだが、クマ国神話では火神ヒノカグツチのライバルとして活躍する。隻眼隻腕の姿で描かれることが多いんだが、有名な竜の討伐数はほぼ互角。どっちが強いか聞かれた際には〝アイツの方が強い〟と応えるほどに、互いを認め合っていたらしい」
西暦二〇X二年八月三一日朝。
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が見事、スフィンクス人形が問いかけるクイズに正解したあと……。
契約した鬼神具、酒虫水瓶に教わって、クマ国神話に詳しいベテラン冒険者の呉栄彦が補足を始めたものの、途中でゴホンと咳払いをした。
「ただし、火神ヒノカグツチも、氷神アマツミカボシも、先ほどの台詞の後に〝だが、俺は常識人で、アイツは非常識だ〟と続けるくらいには犬猿の仲だったと伝えられている」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、山吹色の髪を三つ編みに結った少女、呉陸羽と共に、喜びのあまり紗雨を抱きしめていたが、一歩後ろにさがってポンと手を打った。
「ああ、どうも聞き覚えのある光景だと思ったら、関中と羅生みたいな関係だったのか」
焔学園二年一組の男子は、庶民出身の関中利雄を筆頭とする前衛職が集まったグループと、元八大勇者パーティに縁の深い、羅生正之が率いる後衛職中心の派閥に別れて、いがみあっていた時期があった。
「確かに二人とも、以前はツノつきあわせて衝突していたサメエ。でも、最近は一緒に釣りをしたり、探索チームを組んだり、むしろ相性が良いんじゃないかサメエ?」
「うーん、喧嘩をするほど仲がいいってことも、あるんでしょうか?」
紗雨は桃太が離れたことで名残惜しそうにヒレに似た裾をバタバタしながら首をかしげ、陸羽もまた残念そうに手を伸ばしつつも彼女に賛同する。
「……桃太君や紗雨ちゃん、リウの言う通り、人間ならよくある関係かも知れない。しかし、氷神アマツミカボシと火神ヒノカグツチの場合、神話で語られるだけあって影響力が甚大なんだ」
そして、栄彦はつっかえていた喉を解き放つように続けた。
「氷神アマツミカボシは、行く先々で物は壊す。喧嘩の巻き添えで田畑を台無しにする。賭け事に弱くて簀巻きにされる。……など、トラブルメーカーで知られていた。
唯一、彼を御していたのが武神スサノオなんだが、崩壊した世界の復興と、奥方達の妊娠、出産が重なって、それどころではなかったらしい」
「「そりゃ、そうだ(サメエ)」」
かくて武神スサノオの手綱から離れた氷神アマツミカボシは、暴走を開始したという。
「火神ヒノカグツチは氷神アマツミカボシがやらかすたびに、ライバルを止めようと介入するんだが、毎度裏目に出て火に油を注ぎ、大炎上するんだ。
この手のエピソードは山のように残っていて、そのたびに創世神カミムスビが割りいって宥めるというオチで〆られる」
「「「子供か!?」」」
桃太達はあまりに大人気ないエピソードの数々を聞いて、朝一番の叫びをあげた。
「まあクマ国に限らず、神話の神様ってやつは、よく言えば無邪気、悪く言えば傍迷惑な行動をとるものさ。とはいえ、氷神アマツミカボシの場合、クマ国神話最大のトリックスター。意図的に見えている極大地雷を踏んでいるんじゃないかという、困った人物のようだ」
栄彦が解説を終えた後、右のスフィンクス人形が待ちかねたかのごとく二問目を告げた。
『続いて第二問です。先ほどの問題の回答となるバッドエンドコレクターのプー太郎が引き起こした最悪の事件の名称を以下の三つから答えなさい。
ひとつ、喧嘩祭り、火山噴火事件。
ふたつ、常識爆散、街中全裸徘徊事件。
みっつ、残忍無惨、創世神ひきこもり事件』
「「「なにやってんだああっ」」」
あとがき
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