第559話 最終関門と三体のスフィンクス
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「なあにもちつもたれつ。この調子なら明日一日を地下三〇階探索に当てられそうだ。へーっくしょいっ、酒が抜けると上半身裸は寒っ……」
西暦二〇X二年八月三一日朝。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太とその仲間達は、異世界クマ国ウメダの里にある遊戯用迷宮〝U・S・J〟の地下二九階。恐るべき氷のフロアを突破して、いよいよ最下層、地下三〇階に至る扉までやってきた。
「「こ、これはいったいどういうことだ?」」
しかし、最後のフロアへに至る扉前に陣取っていたのは、従来とは異なり、三体ものスフィンクス人形だった。
「はうっ。これまでの三倍? 三体なんですか!?」
「簡単にはいかないと思ったが、まさかの歓迎だなっ」
山吹色の髪を三つ編みに結った少女、呉陸羽と、彼女の叔父であるベテラン冒険者、呉栄彦が目を大きく見開くと、人間の頭部と獅子の体を持つ門番三体は、二メートル近い高さに作られた頭部から案内音声を発した。
『『『ここが本迷宮最後の扉となります。故に、三連続問題となります』』』
「わかった。はじめて欲しい」
桃太が頷き、一行は緊張感いっぱいでスフィンクスと向き合った。
『第一問です。一千年前の八岐大蛇との戦いにおいて活躍した神々の中で、最も多くのトラブルを起こした馬鹿息子……いえ、問題神を描いた壁画の写しを、以下の百枚からすべて選びなさい』
「「「なにこの設問、おもいっきり感情的だあっ」」」
しかしながら、左のスフィンクス人形が質問するや、張り詰めた空気は一秒も持たずに破綻した。
「馬鹿息子って、スフィンクス人形には息子がいたの?」
「はうっ、桃太お兄様。きっと違います。きっと母親なのは問題を作った田楽おでんさんですよ」
「家庭持ちとしては、身につまされる話だね」
「ああ、そういえばおでんさんがカムロさんと何か話していたような気がするっ」
桃太、陸羽、栄彦の三人が新情報に動揺を隠せない中……。
「おでんオネーサンが、ジイチャンと話していた時、言っていたサメエ。昔引き取ったけど、あまりに素行が悪いから勘当した養子がいたそうなんだサメエ」
クマ国生まれのクマ国育ち、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が、スフィンクス人形に答えを告げようと踏み出した。
「そして、有名だからわかるサメエ。昔。早く寝ないと氷神アマツミカボシがオモチャを壊しにくるってジイチャンに脅かされたんだサメエ……」
紗雨は、吹雪を背にした隻眼隻腕のいかめしい戦士が描かれた絵を一〇枚選びとる。
『正解です』
「「やったー!」」
「サメーっ。やっと解けたサメエっ」
スフィンクス人形が第一関門突破を告げると、桃太と陸羽は、歓喜にむせぶ紗雨をサンドイッチするように抱きしめた。
「紗雨ちゃん、お見事だ」
栄彦もほっとしたように肩の力を抜きつつ、いつものように補足する。
「日本神話では悪神とされる氷神アマツミカボシだが、クマ国神話では火神ヒノカグツチのライバルとして活躍する。隻眼隻腕の姿で描かれることが多いんだが、有名な竜の討伐数はほぼ互角。どっちが強いか聞かれた際には〝アイツの方が強い〟と応えるほどに、互いを認め合っていたらしい」
あとがき
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