第558話 アルコールはほどほどに
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(リッキーが冒険者パーティ〝G・O〟の末期をぼかしていたのは、こういった理由だったのかあ)
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、遊戯用迷宮〝U・S・J〟の地下二九階、凍てついた氷のフロアで雪だるま人形五体と戦いながら、亡き親友のことを思い出した。
(そう言えばリッキーの戦い方って今思えば、彼の叔父である栄彦さん以上に、クマ国の反政府組織〝前進同盟〟の黒騎士に似ているような気がする)
陸喜もまた〝黒鬼術師〟という後衛向きの〝役名〟ながら、前衛で白兵戦を器用にこなし、打撃と武器攻撃で相手に隙を作り出して、術を放つ戦法を得意としていたが――。
(あれって、黒騎士が半浮遊状態のホバリング移動で撹乱したり、ロケット拳骨で奇襲を仕掛けてくるのと同じ理屈だものなあ。リッキーと黒騎士は、何故ああも似ているのか、生前に交流でもあったのか? ……やめよう。決めつけるのは陸喜にも、黒騎士にも失礼だ)
桃太は心騒ぐ間にもラリアットやタックルをいかして四体を撃破。
氷原の冷たい空気を吸い込みながら、自らの腕に衝撃波をまとわせた。
「我流・長巻。こいつで終いだ」
「SNOWSNOW( た、たいちょおお)」
桃太の衝撃刃が、最後に残った雪だるま人形を沈めた時――。
ベテラン冒険者の呉栄彦とシロクマ人形にも決着の時がやってきた。
「そらそらそらあ」
栄彦は足場の悪さを寝転がったり、側転したりでカバーしつつ、シロクマ人形に息もつかせぬ連打を重ねていた。
「GAAAAA( 部下が全滅だとお。こうなったら、ブレスで一発逆転だ)」
シロクマは雪だるま人形達が倒れ、自らも栄彦の連続攻撃に耐えきれなくなったことで形勢不利とみたか、四つ足でじりじりと後退を始めた。あるいは、逆転のための布石だったのかも知れないが……。
「そいつは悪手だ。チャンス到来ってね!」
栄彦は氷の大地にも関わらず、前足を大きく踏み込んで五メートル以上の距離を滑空、シロクマ人形の喉首を肘で撃ち抜いた。
「GAUUUUU( ま、まずい)!?」
「終わりだ。鬼術・氷結柱封印」
栄彦はシロクマ人形が衝撃で動けなくなるや、赤い山椒魚のような虫が描かれた金属製の水筒、〝鬼神具・酒虫水瓶〟からありったけの酒を浴びせかけ、氷の柱に変えて倒した。
「GYAOO( ああ、見事だ)」
「へへ、クマ公。またいつかやろうぜ」
「「「うおおお、栄彦さんが勝ったぞ」」」
栄彦は桃太達の喝采を浴びながら、酒を飲みすぎた赤ら顔で振り返り、拳を突き上げた。
「ひっく。地下二九階は、これまでの訓練フロアの総仕上げってところか。リウは蒸気鎧を再起動、先頭でホバー飛行を維持してくれ。桃太君と紗雨ちゃんは左右から衝撃波と水術でカバーする。私が殿軍を担当するから背後の奇襲は心配ない。行こう」
「「わかりました」」
かくして四人は力を合わせ、空を飛ぶというよりも氷の上を転がるようにして、探索を再開した。
その後、氷に埋もれかけていたお宮風の建物を発見、内部に隠されていたチェック&ワープポイントに到達。最後の扉へ至る道に目星をつけることができた。
「栄彦さん、今日はお世話になりました。ありがとうございます」
「助かったサメエ。あ、あやうく冬眠するところだったサメ」
「おじさま、カッコ良かったですよ」
「なあにもちつもたれつ。この調子なら明日一日を地下三〇階探索に当てられそうだ。へーっくしょいっ、酒が抜けると上半身裸は寒っ……」
あとがき
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